2026年に入り、中東情勢の緊迫化が世界経済の大きな焦点となっています。特に、2月28日に開始されたアメリカとイスラエルによるイランへの攻撃や、ホルムズ海峡の事実上の封鎖は、原油供給への懸念を高めており、原油価格の上昇が連日報じられています。
不動産市場にとっても、この原油高は決して無関係ではありません。不動産は「安定資産」とされる一方で、原油などのエネルギー価格と密接に結びついており、大きな影響を受ける可能性が高いです。
今回は、2記事に渡って原油高が不動産市場に与える影響を整理していきます。前編となる本記事では、中東情勢を整理し、原油高が日本経済自体にどのような影響を与えるのか見ていきましょう。
中東情勢の悪化が招く原油高
イランを中心とした中東情勢は、以前より混乱が続いていました。
中でも、紅海航路の混乱は、世界の物流に大きな影響を及ぼしています。紅海航路とは、ヨーロッパ・地中海とアジア・インド洋を結ぶ重要な海上ルートであり、コンテナ船だけでなく、原油や液化天然ガスの輸送ルートでもあります。しかし、2023年10月ごろから紅海周辺の緊張が高まり、同年11月以降はイエメンの武装組織フーシ派による商船への攻撃が相次ぎ、通航の脅威となっていました。
さらに情勢を一段と悪化させたのが、2026年2月28日から開始された、アメリカとイスラエルによるイランへの攻撃です。
この攻撃により、イランはホルムズ海峡を事実上封鎖しました。ホルムズ海峡も、原油や液化天然ガスを積んだ巨大タンカーの輸送路であり、世界が消費する原油の約2割がこの海峡を通航しています。エネルギー資源を輸入に頼る日本も例外でなく、輸入している約9割の原油が、このホルムズ海峡経由です。
紅海航路とホルムズ海峡という、世界のエネルギー輸送を支える2つの要衝が同時に不安定化したことで、エネルギー輸送は深刻なボトルネックに直面しています。国際通貨基金(IMF)は、世界の石油供給が大幅に減少する可能性を指摘しており、世界的な物価上昇と成長鈍化を招くと警戒感を示しています。
アメリカとイスラエルによるイラン攻撃は、もはや単なる「地域紛争」ではなく、世界経済全体の「コスト構造を揺るがす事象」となっているのです。
原油高がもたらす懸念とは
原油高は、経済全体に幅広い影響を及ぼします。物価を押し上げるだけでなく、企業収益や投資判断、さらには金融政策の方向性にも影響を与えます。
ここでは、原油高がもたらす主な懸念について、インフレ・企業活動・金融政策の観点から整理していきましょう。
インフレの再加速
原油高により、ガソリン価格や物流コストが上昇し、日本でもインフレが再加速する恐れがあります。エネルギーコストの上昇が企業の負担を押し上げ、それが価格に波及する形で物価全体が押し上げられる構図です。
すでに原油を中心とした輸入物価は上昇傾向にあり、その影響は電気やガス、物流コストにも波及しつつあります。企業にとってはコスト増による利益圧迫につながり、製品やサービスの価格に転嫁せざるを得ない状況です。
結果として、幅広い物価の上昇が進み、家計の負担も一段と重くなることが懸念されます。
企業活動への影響
原油高は、企業活動にも広く影響を与えます。
特に、輸送における燃料費の増加や、製造・建設におけるエネルギーコストと資材価格の上昇によって、企業全体のコスト負担も大きくなっていくでしょう。
取引先との力関係や価格交渉力が弱い中小企業などは、販売価格への転嫁が難しく、すでに利益率が悪化している企業もあり、厳しい経営環境に置かれつつあります。
さらに中東情勢の先行きは不透明であり、エネルギーコストや原材料価格の先行きが見通しにくい状況が続いています。そのため、企業は収益予測が立てづらくなり、設備投資や事業拡大の判断が慎重化する可能性があります。
金融政策への影響
原油高は、エネルギーコストの上昇を通じて物価全体を押し上げ、インフレ圧力を強める要因となります。こうした状況が続くと、物価の安定を重視する中央銀行は、物価抑制を目的として金利上昇に動く可能性があります。
市場でも「インフレ継続=将来の金利上昇」という予想から国債売りが進みやすく、長期金利に上昇圧力がかかります。このように、政策と市場の両面から、金利は上昇方向に作用しやすい環境が生まれると考えられます。
ただし、中東情勢の不透明感や景気への影響を踏まえると、中央銀行の判断は一様ではなく、実際の金融政策や金利動向には不確実性も残ります。
仮に金利が上昇した場合、企業の資金調達コストを押し上げるとともに、株式や債券といった資産の現在価値を押し下げる要因となるでしょう。その結果、資産市場全体に下押しの圧力がかかり、金融市場が不安定化につながる恐れがあります。
原油・株式市場の最新ニュースとその影響
ここで、直近における原油・株式市場の状況と、その影響について整理していきましょう。
中東情勢の変化は、原油価格や株価を通じて私たちの暮らしや資産形成にも影響を及ぼします。まずは足元の市場動向を確認することが、今後の判断において重要です。
高止まりが懸念される原油市場
原油市場では、原油価格が一時的に1バレル110$超の水準まで達した場面がありました。4月中旬には、停戦期待を背景にいったん下落する場面も見られましたが、現在は100$前後で乱高下しており、不安定な推移となっています。
現在はアメリカとイランの間で交渉が行われているものの、停滞感が強く今後の進展は読めません。そのため、原油供給不安が再び高まっており、価格の高止まりが懸念されています。
また、国際エネルギー機関 (IEA)のビロル事務局長は、13日に「前例のない供給危機の深刻さは原油価格にまだ十分反映されていないが、いずれ反映される」との見解を示しています。
不安定な状態が続く株式市場
株式市場を見ると、中東の最新情勢に応じて日経平均株価が乱高下を続けています。ホルムズ海峡の事実上の封鎖と原油高によって、3月の日経平均株価は急落を続けていました。しかし、4月7日にトランプ大統領が2週間の攻撃停止を発表したことで、警戒感が緩和され一気に急騰しました。
その後は、停戦交渉の推移によって乱高下を繰り返していますが、現在はアメリカとイランの交渉が継続しているとの見方を背景に、日経平均株価は上昇基調がかなり強くなっています。
とはいえ、アメリカとイランの協議次第な側面が大きく、中東情勢の今後は不透明です。最新のニュースでもわかる通り、リスクオフとリスクオンが短期交錯を繰り返しているため、投資家の心理は不安定にならざるを得ない状況に置かれています。
金融市場も、中東情勢の混乱に引っ張られる形となっており、方向感が不安定な状態にあると言っていいでしょう。
日本経済への波及
日本は原油の大部分を中東から輸入しているため、その影響は決して小さくありません。
原油高により、すでにガソリン価格は上昇しており、物流コストにも上昇圧力がかかっています。結果として、食品や日用品、各種サービスの値上げが重なることで家計負担が増加し、消費が冷え込む可能性があります。
企業においても、先述のとおり、各種活動や資金調達のコスト増加によって利益が圧迫されており、商品やサービスの価格に転嫁せざるを得ない状況が広がっています。
特に建設分野は、建材の加工や輸送にエネルギーが不可欠であるため、製造コストや輸送費の増加が継続的に進むとみられています。すでに上昇傾向にあった鉄骨や鋼材などの建材価格はさらに押し上げられ、工事費の上昇圧力がより強まっていくでしょう。
こうした建築コストの上昇は、2021年のウッドショックを上回る状況へと入りつつあります。また、企業収益の圧迫と消費鈍化が同時に進行することで、景気減速とインフレが併存する「スタグフレーション」に近い局面に入る可能性も指摘されています。
まとめ
中東情勢の悪化による原油高は、金利・市場不安へと波及しています。中東の最新情勢に引っ張られる形で日経平均株価が乱高下している様子が、今後の不確実性を象徴していると言っていいでしょう。
この結果、金融資産は価格変動の影響を受けやすく、現金はインフレになれば価値が目減りしてしまいます。一方で、不動産は実物資産であり、相対的にインフレ耐性を持ちやすく、物価に連動した賃料収益も期待できる資産です。
このように資産ごとのリスクやインフレ耐性の差が顕在化している現在は、その資産が持つ性質に着目した判断が求められます。特に、物価上昇局面では現金の実質価値が低下しやすく、「資産の持ち方そのもの」を再検討することが重要です。
では、こうした状況を受けて不動産市場はどう動くのでしょうか。不動産市場への影響予測と投資の考え方については、後編で解説していきます。


