不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

ジワリ上昇が進む固定型住宅ローン金利、不動産投資に影響はあるのか

10月30-31日の2日間、日銀金融政策決定会合が開催され、現在の大規模な金融緩和政策を維持(マイナス金利を維持)、また長短期金利操作(=イールドカーブコントロール:YCC)は継続するものの、上限の目途を1%として一定以上超えることを容認することになりました。

また、ETFやJREITの買い入れの継続、YCC以外は現行の金融緩和政策の継続を決定したことを発表しました。
徐々に金融緩和政策の出口を模索する様子がうかがえるものの、もうしばらく金融緩和政策は続くものと思われます。

政策金利(基準金利)は据え置きですが、長期国債金利は、夏ごろからジワジワと上昇を続けており11月初旬時点では0.9%前後で推移しており、固定金利の上昇が顕著になってきました。
このような状況下で不動産投資にはどんな影響があるのでしょうか?

メガバンクの固定金利が上昇の一方で、変動金利は変わらず超低金利続く

3メガバンクが10月31日に発表した11月適用分の固定型住宅ローン金利は、前月に比べて上昇しました。
10年固定型の基準金利(表向きの金利)の単純平均では3.80%(+0.12%)、これは12年ぶりの高い水準です。
実際に適用されることの多い提携ローンなどの優遇後の金利でも1.29%(+0.12%)となりました。
固定金利は長期金利の動向を反映するため、冒頭に述べたように、このところの長期国債金利上昇によるものです。

ただ、注意したいのは、大手金融機関の固定型ローンの金利は前月の中〜下旬の長期国債金利をもとに決めるのが一般的で、11月分適用のローン金利に今回のYCCの再修正は反映されておらず、固定型ローンの金利は12月以降にさらに上昇する可能性は極めて高いでしょう。
その一方で、政策金利・短期プライムレートに連動する変動型金利は、変わらず超低水位準が続いています。
区分マンションなどの不動産投資で借り入れをする場合、現在は圧倒的多数の方が変動金利を選ぶようですが、こちらに大きな変化は、今のところありません。

長期国債金利上昇で期待利回りが変わる?

収益不動産の価格を収益還元法で算出する場合(運営費・経費などをここでは綱領していません)、収益不動産価格=賃料(年間収益)÷利回りで算出します。
ここで、収益については実数を用いますが、割り戻す項(=利回りと記した部分)は、その目安としてキャップレート(=期待利回り)を用いることが多いようです。

このキャップレートは、リスクフリーレート(=長期国債金利)+リスクプレミアム(不動産固有のリスク)+立地などのプレミアム、と考えられます。
このうち、現在は長期国債金利が上昇しつつあるということで、キャップレートの上昇可能性があり、仮に賃料が一定とすれば、不動産価格下落可能性があることになります。

しかし、投資用の不動産価格下落の加工性は低そうです。それは、以下の2つの理由によります。

キャップレートと実取引レートの差

キャップレートとは、先に書いたように「期待」利回りのことで、投資家が期待する利回りのことです。

しかし、現在は「期待」通りの利回りで購入できることは難しいようです。
日本不動産研究所の最新(23年4月分)の調査では、例えば東京城南地域のキャップレート(賃貸住宅ワンルームタイプ)は3.7%、実取引レートは3.5%となっています。東京城東エリアでも同じように0.2ポイント程度の差があります。

都心部やその周辺地域における賃貸住宅とくにワンルームタイプ物件への投資意欲は引き続き旺盛ですので、現在はこの値よりも低くなっている可能性もあります。
こうしたことから、キャップレートの理論上の計算からは長期国債金利上昇に伴い、キャップレートの上昇可能性がありますが、その上昇分はキャップレートと実取引レートの差で吸収できる範囲内と思われます。

賃料の上昇が顕著に!

また、先に「仮に賃料が一定とすれば」と書きましたが、昨今の都心やその周辺地域での住宅賃料は、ジワジワと上昇しています。
特にファミリータイプ物件の賃料上昇が目立っていますが、ワンルームタイプやコンパクタイプの賃貸物件の賃料も上昇しています。
物価上昇時には必ず(やや遅れて)賃料が上昇することは周知の事実です。
 
そのため、先の計算式(収益不動産価格=賃料/利回り)のうち、賃料が上昇しているわけですから、仮に利回りが一定としても、収益不動産の価格は上昇基調になる可能性が高まっているといえるでしょう。
 
このように、安易な報道に惑わされることなく、論理的に考えて不動産投資を行うようにしていただきたいと思います