「地価上昇」や「不動産価格の高騰」というニュースを目にすることが増え、「土地の値段は上がり続けている」という印象だけもっていませんか。
国税庁が2026年7月1日に発表した2026年分の路線価は、全国平均で前年比プラス2.9%と5年連続の上昇となり、現在の算出方法となった2010年以降で最大の上昇率を記録しました。なかでも都心や再開発エリアでは、大幅な上昇が目立っています。
その一方で、財務省は、2026年6月17日に「相続で国に帰属した不動産」の売却ルールを見直す方針を示しました。買い手のつかない土地は、最終的に当初の評価額の7%、つまり最大93%引きまで段階的に減額して売却できるようにするという内容です。
全体的に地価が上昇し続けているなか、なぜ国は93%もの値下げまで視野に入れているのでしょうか。一見すると矛盾するこの2つのニュースは、いま不動産市場に起きている大きな変化を示しています。本記事では、それぞれの背景を整理し、これからの不動産選びで重要になる視点を解説します。
「最大93%値下げ」とは?国の売却ルール見直し
まず、「最大93%値下げ」と報じられた、国が保有する相続不動産の売却ルール見直しについて整理します。
従来の制度は「適正価格で売る」が原則
相続放棄や相続人の不存在、、相続土地国庫帰属制度の利用などにより、相続不動産が国に帰属するケースがあります。国はこうした不動産を、鑑定評価にもとづく「適正価格」で売却することを原則としてきました。
具体的には、まず鑑定評価によって売価を決め、一般競争入札にかけ、売れなければ再入札を行い、それでも売れなければ国が保有し続ける、という流れです。
しかし現実には、駅から遠いなど立地条件が良くない、利用用途が限られている、管理コストがかさむ、といった理由で、何度入札にかけても買い手がつかない土地も少なくありません。
実際、2023年に始まった相続土地国庫帰属制度※で国に帰属した土地は、法務省の統計によると2026年5月末時点で2,762件にのぼりますが、一般競争入札による売却実績はゼロと報じられています。
相続人も手放したい、売れない土地を国が抱え込み、その維持管理費を国民の税金で負担し続けるという構図が問題視されてきました。
※相続土地国庫帰属制度: 相続した不要な土地を負担金を支払って国に返せる制度
新ルールは「価格を下げても売り切る」
こうした状況を受けて、財務省は2026年6月17日の財政制度等審議会 国有財産分科会で、売却ルールの見直し方針を示しました。
新しい仕組みでは、入札で売れなかった土地について、まず評価額を約30%引き下げ、それでも売れなければ約3か月ごとに約10%ずつさらに引き下げ、最終的には当初の評価額の7%、つまり最大93%引きまで減額できるようにします。
あわせて、買い手を決めて直接売却する「随意契約」や、測量などをせず現状のまま引き渡す「現状有姿売買」といった柔軟な処分方法も導入する方針です。「適正価格で売る」ことにこだわる姿勢から、「価格を下げてでも売り切る」方向へ、国の姿勢が大きく転換したといえるでしょう。
【出典】相続土地国庫帰属制度の統計(法務省):https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00579.html
一方で、路線価は過去最大の上昇率に
国が土地の大幅値下げ売却を想定している一方で、2026年7月1日に国税庁が発表した路線価は、力強い上昇を示しました。
路線価は、相続税や贈与税を計算する際の基準となる土地の価格で、毎年1月1日時点の評価が7月に公表されます。2026年分は、全国約31万地点の標準宅地の平均が前年比プラス2.9%となり、5年連続で上昇しました。上昇率は、現在の算出方法となった2010年以降で最大です。
特に都市部の強さが際立ちました。全国の都道府県庁所在地の最高路線価は、バブル期の1991年公表分以来35年ぶりに下落した都市がゼロとなり、44都市で前年を上回りました。駅前再開発が進む盛岡市やさいたま市など5都市では、上昇率が10%を超えています。
全国で最も路線価が高かったのは、41年連続で東京都中央区銀座5丁目の「鳩居堂」前で、1平方メートルあたり5,336万円(前年比プラス11.0%)でした。このほか、インバウンド需要が回復した観光地や、再開発が進む都心エリアでも大幅な上昇が目立ちます。
ただし、これはあくまで「突出した一部エリア」と「全体の平均値」による傾向です。地方や人口減少が進む地域では、路線価が横ばい、あるいは下落しているところも依然としてあります。
日本全体一律で地価が上がっているわけではない点には、注意が必要です。
【出典】令和8年分の路線価等について(国税庁):https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2026/rosenka/index.htm
加速する「不動産市場の二極化」
「2010年以降で最大の路線価上昇」と「最大93%の値下げ売却」。この2つのニュースが同時に流れる状況こそ、不動産市場の「二極化」が加速していることの表れといえます。
需要が集中するエリアの不動産は価格上昇が続いている一方で、需要のないエリアの不動産は9割以上値引きしなければ買い手すらつかない、同じ「不動産」でも、市場からの評価はまったく別次元のものになりつつあるのです。
選ばれる不動産と売れ残る不動産の特徴を整理すると、次のようになります。
| 選ばれる不動産 | 売れ残る不動産 | |
|---|---|---|
| 物件の立地 | 都心・駅近 | 郊外・駅遠 |
| 周辺の将来性 | 再開発エリア | 開発予定なし |
| エリアの特徴 | 単身需要が豊富 | 人口減少地域 |
| 物件の特徴 | ブランドマンション | 老朽化物件 |
| 管理状況 | 管理状態が良好 | 維持管理不足 |
これからの資産形成では、「不動産を持っているかどうか」ではなく、「需要のある不動産を持っているかどうか」が問われる時代になるでしょう。
本当に怖いのは「値下がり」ではない
不動産のリスクというと、「価格が下がること」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、今回の国の売却ルール見直しが示しているのは、それ以上に深刻なリスクです。
本当に怖いのは、売りたくても売れない、貸したくても借り手がいない、相続したくても引き継ぎ手がいない、という「流動性を失った不動産」になってしまうことです。価格が下がっても売れるうちは、まだ出口があります。
しかし、買い手も借り手も見つからない不動産は、固定資産税や管理費だけがかかり続ける「負動産」となりかねません。また、そのような不動産を相続し、手放したくても、今後は国も引き取る際の条件をより厳しくすることも考えられます。
実際、近年は空き家の増加が社会問題となっており、親から相続した家が「資産」ではなく「負担」に変わってしまうケースも増えています。国でさえ、物件によっては「最大93%引き」という思い切った値下げの仕組みを用意しなければ処分が進まない、と判断しているのです。
もっとも、対象となるのは、もともと引き取り手がなく国に返された、市場性の乏しい不動産です。
一般の不動産市場でも価格9割引の取引はめったにありません。
しかし、需要を失った不動産が最終的にどのようになるのかを示す事例や、需要のない不動産を持ってしまうことや持ち続けることのリスクを考えるうえで、参考になるニュースといえるでしょう。

まとめ
2026年7月1日に発表された路線価は、全国平均プラス2.9%と5年連続の上昇で、現行の算出方法となって以来最大の上昇率となりました。その一方で財務省は、国に帰属した相続不動産について、最大93%引きまで段階的に評価額を引き下げて売り切る新たなルールの導入方針を示しています。
この対照的な2つのニュースが示すのは、「すべての不動産が資産になる時代」から「選ばれる不動産だけが資産になる時代」への転換です。
将来の資産形成や相続を考えるうえで重要なのは、「売れる」「貸せる」「引き継げる」という条件を備えた不動産を選ぶことです。大幅な値下げには、それだけ需要がない、そこまでしてでも手放したいという裏側があります。
目先の価格の安さよりも、都心立地や駅近、豊富な賃貸需要、良好な管理状態など、市場から選ばれ続ける条件を備えた不動産かどうかを見極める視点が、これからますます重要になるでしょう。
