不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

空き家数減少!最新データで読み解く賃貸住宅の空き家について

【目次】

―住宅増加の約4割は首都圏に集中
―賃貸住宅の空き家
―賃貸住宅の空き家が大きく減少している東京都

住宅増加の約4割は首都圏に集中

前回(ほとんど伸びていない空き家率。5年ぶりに更新された空き家率データを読み解く)は、先ごろ公表された空き家データの全体について分析しました。
4月26日に発表された数字は、「速報値」となっています。最終的には、確定値を待たねば正確な数字は分かりません。
しかし、関係者に聞くとそれほど大きな差は出ないとのことですので、大きな傾向は分かると思います。

住宅総数は前回調査(2013年10月時点)に比べて、今回(2018年10月時点)は約180万戸増加。これはプラス3%で、伸び率はかなり低いものとなりました。
また、この数字は複数の民間シンクタンクの予測を大幅に下回るものでした。
最近でも「住宅が建てられ過ぎているという」報道を時折目にしますが、正しくは「全国的に見ると、近年は、これまでに比べて住宅はあまり建てられていない」 が正しいようです。

 増加数を都道府県別でみると、最も多いのは東京都で約31万戸、次に神奈川県で15万戸、千葉県の14万戸、埼玉県の12万戸と首都圏で合計72万戸、増加数の約40%が首都圏に集中する形になっています。
こうした数字からも首都圏への人口集中の様子がうかがえます。

賃貸住宅の空き家

「住宅・土地統計調査」の空き家の種別は以下の4つに分類されています。

1)二次的住宅
 ―別 荘
 ―その他
2)賃貸用の住宅
3)売却用の住宅
4)その他の住宅

ここからは、この4分類のうち、「賃貸用の住宅」の空き家について分析してみます。
賃貸住宅の空き家といってもピンときません。どちらかと言えば、空室と言う方がしっくりきます。

今回調査(2018年10月時点)の空き家を分類別にみると、最も多いのは、賃貸用の住宅の空き家で約431万戸(室)。空き家総数846万戸の約51%と過半を占めています。
続いて、その他の住宅(長年使われていないもの等)が347万戸で約41%となっています。
 
こうしてみると、賃貸用住宅の空き屋が多いように見えますが、長きにわたり住宅着工数に占める賃貸用住宅の割合が多いため、その総数も最も多くなっているので、当然なのかもしれません。

賃貸住宅の空き家が大きく減少している東京都

今回の調査では、賃貸用住宅の空き家実数、空き家率ともに低下している都道府県も東京等の大都市を中心に見られました。

4大都市のうち東京、愛知、福岡の賃貸用住宅は賃貸住宅の空き家実数は減少しました。一方、大阪府は増加という結果になりました。
詳しく、見てみましょう。

上図は2003年以降(調査は5年毎)の東京都における賃貸用住宅の空き家数の推移です。
これをみると、2000年以降空き家が増えていましたが、今回の調査では2万室近く空き家が減っています。

比較として、大阪府を見てみましょう。

大阪府における賃貸用住宅の空き家は、約45万戸で、5年前に比べて約3万5000戸の増加となりました。
4大都市では、唯一の増加となりました。約8.5%増と、かなり大幅な増加となりました。

このように、大阪府は賃貸住宅の空き家増加、東京都は賃貸住宅の空き家が近年減少、となっています。
この傾向は、都道府県別の人口移動状況を見ると、納得が行きます。東京都は、いうまでもなく日本最大の転入受け入れ自治体ですが、その東京都に最も多く住所移転(移動)してくる方の元の所在地は大阪府となっています。
2000年頃から、大阪に本社を構える企業の東京移転、あるいは実質的な移転(登記上の本社は移さない例)が増えてきました。
ビジネス上においては、すでにずいぶん前から東京、大阪、2大都市という状況ではなくなっています。
大阪は、最大の地方都市となっています。

賃貸住宅の空室にもこうした、傾向がはっきり見え始めています。
賃貸住宅投資、ワンルームマンション投資においても、東京都一強状態にますます拍車がかかってきています。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。