資産を贈与する場合、どんな形で引き渡すのが最適なのでしょうか?贈与税の仕組みや資産の種類ごとに応じた節税ポイントを理解することによって、税負担を軽減して次世代に資産を引き継ぐことができます。
本記事では、贈与税の基本的な計算方法や不動産贈与のメリット、具体的な節税ポイントについて解説します。
【贈与における不動産の特徴・ポイント】
・評価額が時価より低くなりやすく、課税額を抑えられる
・将来の資産価値上昇による値上がりや賃料収入が期待できる
・維持費や管理のコストを考慮する必要あり
【目次】
1.贈与とは?
贈与税の税率
2.贈与税のポイント
資産の種類ごとの贈与税
3.不動産で贈与税対策を行う方法
①基礎控除を活用
②配偶者控除を活用
③住宅取得資金贈与を活用
④相続時精算課税制度を活用
4.贈与で不動産を活用するときの注意点
将来の市場価値を見極める
贈与後の活用方法を検討しておく
価値の引継ぎが最も重要
5.まとめ
1.贈与とは?
贈与とは、生前に個人から個人へ財産を無償で渡すことを指します。1年間の贈与額が基礎控除額である110万円を超えた場合、超過部分に対して贈与税が課されます。
贈与税の税率
贈与税は累進課税制度が採用されており、贈与額が大きくなるほど税率が高くなります。以下が現在の税率表です。
贈与税は贈る側(贈与者)と受け取る側(受贈者)の血縁関係によって税率が変わるため、注意が必要です。
基礎控除後の課税価格 | 特例税率 ※直系尊属(父母や祖父母など)からの贈与に使用 |
一般税率 ※直系尊属以外からの贈与に使用 |
||
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税率 | 基礎控除額 | 税率 | 基礎控除額 | |
200万円以下 | 10% | - | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 | ||
400万円以下 | 15% | 10万円 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 | 50% | 250万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 | 55% | 400万円 |
参照:国税庁「贈与税の計算と税率(暦年課税)[令和6年4月1日現在法令等]」
贈与額が年110万円以下であれば贈与税はかかりませんが、それを超える場合は申告と納税が必要です。
2.贈与税のポイント
贈与税は、資産の種類や評価方法によって税額が大きく変わります。計画的な贈与によって税負担を軽減し、資産の移譲をスムーズに行うためのポイントを押さえておきましょう。
資産の種類ごとの贈与税
贈与税は、現金や預貯金、不動産、株式など、贈与する資産の種類に応じて課税額が異なります。
現金・預貯金
現金・預貯金の贈与は最もシンプルで、贈与額そのものが課税対象となります。
現金は簡単に少額ずつ贈与できるのが大きなメリットなので、基礎控除を活用しながら数年に分けて贈与する「定期贈与」を行うことで税負担を抑える方法が効果的です。また、住宅取得資金や教育資金の特例を利用することで、非課税枠を増やすこともできます。
贈与に活用できる特例に関しては相続税を圧縮する対策4選|マンション投資の節税効果を検証で解説しています。こちらもご参照ください。
株式
株式の贈与は、上場株式であれば贈与時の市場価格、非上場株式では「類似業種比準価額」や「純資産価額」など独自の方法で評価されます。上場株式の場合は、株価が下がったタイミングで贈与することで贈与税を抑えることが可能です。
また、自社株を贈与する場合は、事業承継対策として「相続時精算課税制度」を活用する方法もあります。60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与に限られるなどの制限はありますが、上手く利用すれば贈与時の評価額で税負担を計算でき、将来的に株価が上昇しても追加の贈与税が発生しないというメリットがあります。
不動産
不動産は贈与税対策として特におすすめです。現金とは異なり、不動産の贈与税評価額は「固定資産税評価額」や「路線価」を基に決められるため、一般的に市場取引価格(時価)より低く評価されます。そのため、贈与税の支払いを抑えて贈与することが可能です。
さらに、賃貸物件の場合は「借家権割合」や「貸家建付地評価」が適用されるため、大きな節税効果が期待できます。
3.不動産で贈与税対策を行う方法
不動産を活用した贈与税対策は、評価額が低くなる特性があることから特に節税効果を高める方法として有効です。
不動産の場合は以下の制度や控除を活用することで、さらに贈与税の負担を軽減して資産を贈与できます。
①基礎控除を活用
年間110万円の基礎控除を活用し、複数年に分割して贈与する「定期贈与(分割贈与)」は不動産の贈与においても有効です。
例えば土地を数年かけて分割して贈与することで、一気に贈与するよりも税負担を大幅に軽減できます。
②配偶者控除を活用
配偶者控除を活用すれば、婚姻期間が20年以上の配偶者に対して2,000万円までの自宅(もしくは自宅購入資金)を非課税で贈与できます。
この制度を利用して自宅の名義を配偶者に移せば、贈与税の負担を軽減しつつ将来の相続税対策にもつなげることができます。
③住宅取得資金贈与を活用
父母や祖父母から子や孫へ住宅取得資金を贈与する場合、「住宅取得資金贈与の特例」を適用すると、一定額まで贈与税が非課税になります。
適用される金額は住宅の性能や契約時期によって異なりますが、居住用の住宅購入を検討している場合は大きな節税効果が期待できます。
④相続時精算課税制度を活用
相続時精算課税制度を活用すれば、2,500万円までの贈与が非課税となり、贈与時点での評価額が相続時に加算されます。
この制度は、将来的に価値が上昇する可能性のある収益物件やインフレ資産の贈与に有効です。評価額が低い段階で不動産を贈与することで、将来の相続税対策として大きな効果を発揮します。
収益物件の場合は贈与が発生した時点で賃料収入を受け取る権利が受贈者に譲られるため、賃料分を相続税の支払いに充てられるなどのメリットもあります。
ただし、相続時精算課税制度を選択すると暦年贈与はできなくなってしまうため、それぞれのメリットを比較したうえで選ぶことが大切です。
4.贈与で不動産を活用するときの注意点
不動産を贈与する際は、将来の価値や活用方法をしっかりと見極めることが重要です。
贈与のタイミングや目的を誤るとかえって税負担や管理の問題が生じる可能性があるため、以下のポイントに注意しながら不動産贈与を進めるようにしてください。
将来の市場価値を見極める
不動産の価値は市場状況や立地によって大きく変動します。
現時点で評価額が低くても、将来的に値上がりする可能性がある収益物件や土地は、早めに贈与することで節税効果が高まる場合があります。一方で、下落が予想される物件は、今すぐ贈与するよりも様子を見る方が有利なこともあります。
周辺エリアの開発状況や人口の推移など、さまざまな情報を参考に将来の市場価値を見極めることが重要です。
贈与後の活用方法を検討しておく
不動産を贈与した後、その不動産をどのように利用するかを明確にしておきましょう。不動産は固定資産税や維持費が発生するため、利用計画がないまま放置すると受贈者にとって大きな負担となる可能性があります。
相続時精算課税制度を活用して賃貸物件の賃料収入を受け取れる体制にしておく、資産価値が上がったタイミングで売却する、など贈与後の具体的な活用方法も含めた計画を立てることが大切です。
価値の引継ぎが最も重要
節税も確かに重要ですが、それ以上に価値ある不動産を適切なタイミングで贈与し、受贈者にとって有益な形で引き継ぐことが大切です。贈与だけでなく、死亡時の相続まで含めてどのように資産を引き渡すのが最適かよく考慮しましょう。
資産を受け取る側の立場に立ち、価値あると思える資産を形成することで真に意味のある贈与になります。
将来的な活用方法や市場価値をしっかりと見極め、とにかく計画的に進めるようにしましょう。
5.まとめ
贈与とは、生前に資産を他者に譲渡することであり、相続税対策や資産の円滑な移譲を目的とする有効な手段です。
特に不動産を活用した贈与は評価額を現金に比べて低く抑えられるため、税負担の軽減につなげられます。基礎控除や配偶者控除、住宅取得資金贈与の特例など、各種制度を効果的に組み合わせることで、さらなる節税効果を期待することができるでしょう。
不動産を利用して贈与税の対策を行う場合、節税を優先しすぎて結果的に資産の価値を損なったり、家族間でトラブルが生じたりすることのないよう注意を払うことも重要です。
仕組みを理解したうえで、自分に合った対策を取り入れていきましょう。