物価上昇だけでなく、住宅賃料の上昇を取り上げるメディアが増えてきました。
新築マンション・中古マンション価格の上昇に伴い、ファミリータイプの賃貸住宅需要が高まり、とくに分譲マンション賃貸物件の賃料は、このところかなり上昇しています。
それに比べて、比較落ち着いていたワンルーム・コンパクトタイプの賃料も、このところ上昇が顕著になってきました。
今回は、24年の住宅賃料について考えてみましょう。
継続賃料と新規賃料
賃料について語る際に、まず解説しておかなければいけないことがあります。
賃貸物件オーナーの方はご存知のように、家賃が変わるタイミングは、2パターンあります。
1つ目は契約期間満了で、そのまま継続(再契約)するタイミング。2つ目は、現入居者が退去し新入居者に変わるタイミングです。
このうち、前者の場合の、少し上がった(あるいは下がった)新賃料は「継続賃料」といい、後者の場合の新賃料は「新規賃料」と言います。
一般的な普通借家契約を結んでいるとして、継続賃料は大きく変化せず、例えば家賃上昇局面では上昇率は、新規賃料の方が大きくなります。
新規賃料は、不動産鑑定でいう「正常賃料」に該当し、正常な市場の中で成立する賃料です。一方、継続賃料は、借地借家法により賃借人を保護されることになっており、それまでの期間、現賃料で賃貸借が成立していたものを覆すことになるため、「大きな値上げ」は難しくなります。
賃料動向の推測に活用できるデータ
住宅賃料(=家賃)の詳細な動向が分かるデータは多くありません。賃貸住宅を管理する会社が、自社管理物件の詳細な賃料データを公表している例はほとんどありません。
賃貸ポータルサイトなどでは、公募家賃は掲載されていますが成約家賃は分かりません。
ワンルーム・コンパクトタイプは公募家賃=成約家賃の場合が多いですが、大きいサイズの物件はそうとも限らないので、正確な数字が分かりません。
そこで、上場している不動産ファンドであるJREITのIR資料から、動向を分析しようと思います。
東京証券取引所に上昇している銘柄ですので、該当銘柄のサイトを見れば、保有する資産の運用状況を誰でも入手し知る事ができます(決算資料、資産運用報告書など)。
保有資産(運用資産)のほぼ100%が賃貸住宅である「レジデンス系REIT銘柄」は4つあります。そのうち3銘柄は、都心物件が中心で、もう1つは地方主要都市中心の銘柄です。
このうち三井不動産系の日本アコモデーションファンド(3226)の23年8月期(現時点で最新。次期は24年2月期)決算説明資料を見ることにします。
https://www.naf-r.jp/file/ir_library_term-a03db50ce50daef1687da13e7193b91c3d4d7849.pdf
このREITの保有不動産(数%の割合でシニアレジデンスや寮があります)は賃貸住宅では東京23区が88.5%、シングルコンパクトタイプが83.4%となっており、本サイトをご覧の方々がターゲットとしている物件に合致するものと思われます。
入れ替え賃料の上昇率、都心3区では7%超え!
資料によれば、入れ替え時賃料変動率(つまり新規賃料の上昇率)は、23年8月期では都心3区物件は7.1%の上昇、他23区は3.5%の上昇、となっています。
前期(23年2月期)は、都心3区では6.8%の上昇、他23区は2.6%の上昇となっています。
前々期(22年8月期)は都心3区が4.3%の上昇、他23区が1.3%の上昇ですから、この1年間で大きく伸びていることが分かります。
上昇の幅は、ワンルーム<コンパクト<ファミリー となっていますが、冒頭にお伝えしたように、ここにきてワンルーム、コンパクトも家賃上昇がみられるようになってきています。
一方の更新時賃料変動率(つまり継続賃料)は、23年8月期は0.3%の上昇、前期(23年2月期)は0.1%の上昇、前々期(22年8月期)が0.1%の上昇でしたので、継続賃料には上昇率に大きな変化が見られませんが、確実に賃料は上がっていることになります。
24年の賃料は上昇確実か?
すでにかなり賃料が高騰しているファミリータイプを追うように、ワンルームやコンパクトタイプの賃料も上昇しています。
これら主に単身向け物件の入れ替え年数は3年程度のようですから、物価上昇が22年から始まってすでに丸2年が経過、そして24年は3年目ということになります。
こうした状況から考えると、家賃が物価上昇に連動し上昇がより顕著になる可能性が高いと思われます。