不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

最新データで解説!キャップレートは、まだ下がるのか? 最新キャップレート分析

日本不動産研究所から最新の「第49回不動産投資家調査」(11月27日)が公表されました。
この調査は、アセットマネジメント会社・デベロッパー・商業銀行・投資銀行・生命保険会社・不動産賃貸業などへ、「期待利回り」(=キャップレート)などについてアンケート調査したものです。
今回の調査結果では、地方都市を含め多くの地域で賃貸住宅のキャップレートは本調査開始以来最も低い値を更新しています。
これは、賃貸住宅への投資意欲は引き続き旺盛であり、賃貸用住宅の価格は引き続き上昇基調にあることの表れとなります。
ここでは、第49回「不動産投資家調査」(調査時点:23年10月)のデータをもとに、現状の不動産投資におけるキャップレートの動向について解説します。

キャップレートとは

キャップレート(Capitalization Rate)については、すでに本サイトで何度も説明していますが、簡単に説明しておけば、「不動産投資における利回りの指標」の一つで、「期待利回り」のことを指します。
収益還元法での収益物件価格の算定式では、年間収益(NOI)÷利回り=不動産価格 で計算されます。
ここでの「利回り」は、キャップレートが基準として用いられる例が多く見られます。
この計算式を用いれば、仮に賃料水準が一定とすれば、「キャップレートの動向は、不動産価格の動向を反映したもの」となり、例えばキャップレート低下は不動産価格の上昇となります。

キャップレートはあくまでも、「投資家など市場参加者の期待値」ですので、実際の取引利回りとは異なります。
そのため、キャップレート>取引での利回り の場合は、投資意欲が盛んであることになります。

それでは、賃貸住宅(投資用マンション)の最新のキャップレートを分析してみましょう。

賃貸住宅ワンルームタイプのキャップレート

ワンルームタイプ(注:ワンルームタイプは25~30㎡、築5年未満、駅徒歩10分以内の想定)の賃貸住宅(一棟)のキャップレートは、調査を行った全国主要都市(10都市)のうち、仙台・横浜・名古屋・京都・福岡で0.1ポイント低下しました。
それ以外の6都市では横ばいとなっています。ワンルームタイプは全般的に「横ばい」という状況です。

 

後述する立地プレミアムのベースとなる東京城南エリア(目黒区・世田谷区、渋谷・恵比寿へ電車などで15分圏内想定)を例にとってみれば、キャップレートは3.8%で前回と同じ、想定物件の取引利回りは3.5%でこちらも前回と同じとなっています。
都市部における賃貸住宅需要は安定が続く見通しのため投資意欲は高いものの、「さすがに、ここまで高いとなかなか手が出にくい・・」という状況のようです。

ファミリータイプの状況

賃貸住宅のファミリータイプ(注:想定は広さ50㎡~80㎡、それ以外はワンルームタイプと同じ)では、多くの都市でキャップレートが低下しました。
調査10都市のうち、東京城南・仙台・名古屋・京都・神戸・広島・福岡で0.1ポイント、札幌では0.2ポイント低下しました。横ばい地域は2地域で、ワンルームタイプに比べて、全国的に低下している状況が伺えます。

 

立地プレミアムのベースとなる(=つまりもっともキャップレートが低いと思われる)東京・城南地域をみれば、22年10月 4.0% →22年4月 3.9% →23年10月 3.8%と推移しており、最新の値はワンルームタイプと同じ値となっています。
また、想定物件の実際の取引における利回りは3.5%、でこちらもワンルームタイプと同じとなっています。

投資物件としては、安定的に賃貸住宅需要があり、つまり空室が出にくく、賃料のボラティリティが小さいこともあって手堅いとみられるワンルームタイプの方が、キャップレートは低い傾向にありました。
しかし、このところの動向をみれば、ファミリータイプのキャップレートが低下している都市が多く、ワンルームとファミリータイプが同じ値の都市6つ、その他地域でも差は0.1ポイントとなっています。

ワンルームタイプでは、インカムゲイン狙いの安定感では勝るものの、都心の超一等地の高額ワンルームなどではキャピタルゲインは狙えますが、金額が安い物件ではそれほど大きな金額を狙うことは難しくなります。
この逆の状況がファミリータイプ物件です。マンション価格の上昇が続いている状況下では、多少のリスクがあってもキャピタルゲインを狙うという思惑が広がっているのかもしれません。

キャップレートの要素分解

キャップレートを理論上で要素分解すれば、リスクフリーレート(=10年物国債金利を想定)+リスクプレミアム(不動産保有するリスク)+立地プレミアム(立地によるリスクの差)で表現されます。

賃貸住宅の平均的な投資機関(物件の保有期間)は10年程度とみなせば、リスクフリーレートは10年物国債金利が近似値として使えます。
また、立地プレミアムは、賃貸住宅の場合、最も期待利回りの低いとされる東京城南地域をベース(±0)として各地域それぞれ加算します。

この調査結果によればオフィスビルにおけるリスクプレミアムは10年物国債に対して2.8%となっています。
賃貸住宅におけるリスクプレミアムの調査は行われていないようですが、アセットオフィスビルと比較して+0.5%程度(2.8+0.5=3.3%)だと思われます。11月末時点の10年物国債金利約0.7%を足せば3.8%となります。

しかし、前述のように、東京・城南エリアのワンルームタイプのキャップレートは3.8%ですから、それよりも低くなっています。
理論上で考えるよりも低い利回りが「期待利回り」となり、それよりも低い利回りで取引されているのがいまの現状と言えるでしょう。

まだまだ投資意欲は高い

本調査ではキャップレート以外のアンケート調査も行っていますが、「今後1年間の不動産投資に対する考え方」についての回答では、「新規投資を積極的に行う」の回答は95%(前回は96%)と大きな変化はなく、積極姿勢が続いています。
一方「新規投資を控える」の回答は5%(前回は3%)と、前回調査から僅か2ポイント上昇しました。
この調査からは、金利上昇を心配しつつも、不動産市況はまだしばらく活況が続きそうな様子がうかがえます。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。