不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

最新首都圏の基準地価動向と投資用マンションの供給地域の変化

地価上昇が続く首都圏

9月19日に公表された23年分の基準地価では、東京圏では全用途平均で+3.1%(昨年は+1.5%)、住宅地で+2.6%(昨年は+1.2%)、商業地では+4.3%(昨年は+2.0%)となりました。

大都市部住宅地地価上昇の要因として、都市部中心地域や生活利便性の高い地域では、住宅需要が堅調で、金融緩和政策の継続から住宅ローンも低金利が続いていることなどが需要の下支えとなり、地価上昇が継続しています。
また、都市部の商業地においては、コロナ後の人流回復によって店舗需要は回復が鮮明となり、また、新型コロナウイルス感染症の位置づけが「5類感染症」となったことで、オフィス需要も堅調となっていることから地価上昇傾向がより鮮明となっています。

また、マンション需要堅調、マンション価格上昇が続いており、マンション用地需要との競合により、商業地地価上昇に繋がっています。
また、再開発事業が、都心だけでなく首都圏の主要地域で盛んに行われており、利便性・繁華性向上の期待感から地価上昇が続いています。
再開発周辺地には多くのマンションが建設され、こうした流れも商業地地価上昇に拍車をかけています。

首都圏の基準地価の詳細

住宅地の23区全体では4.2%の上昇(昨年は2.2%)、各区をみれば上昇率は全て3%を超えており、(昨年は+1~2%台中心)、中でも、文京区と豊島区は6%を超える上昇となっています。東京圏内では、千葉県市川市が+11.3%と唯一10%以上の上昇となりました。

主な地域では横浜市は2.5%の上昇(昨年は+1.3%)、川崎市は2.4%の上昇(昨年は+1.3%)、千葉市は2.6%の上昇(昨年は+1.5%)となっています。
商業地では、東京23区全体で5.1%の上昇(昨年は+2.2%)とプラス幅が拡大しました。中でも台東区、北区では7%を超える伸びとなっており、中心区部より離れた区部の上昇が顕著になっています。

東京圏内では、千葉県市川市が+13.0%と船橋市は+10.2%、浦安市は+14.2%と、東京都に近い千葉県の市で10%を超える伸びとなっています。

首都圏投資用の新築マンションの建築地

首都圏における長期的な地価上昇の流れは、投資用マンション供給にも影響を与えているようです。
(株)不動産経済研究所の調べによれば、2022年の1年間に発売された投資用の新築マンションは5961戸(131物件)でした。首都圏で22年に発売された新築マンションは2万9569戸でしたので、約20.1%が投資用マンションだったことになります。


2013年以降の新築投資用マンションの発売戸数をみれば、6000~7000戸台(年間)が続いていますが、投資用新築マンションの分譲が急激に伸びた2000年台前半(同時期は分譲マンションも多かった時期です)は、投資用マンションの新規分譲数が8000戸台を超えていました。

しかしここ10年、投資用マンション需要は旺盛にもかかわらず、2000年代前半に比べて供給数が増えず横ばいが続いているのは、投資用マンション適地が不足しているからでしょう。
適地とは、つまり投資用マンションに相応しい立地であり、投資家が求める利回りを確保できるという条件を満たしている土地ということです。

23年上期分は供給エリアに変化のキザシ

2013年以降の投資用分譲マンションの㎡単価をみれば、21年に㎡単価が僅かに下落しています。
新型コロナウイルスの影響も多少あったと思われますが、それ以上に大きな影響をもたらしたと考えられるのが、供給された新築投資用マンションの地区に変化が見られたことです。

2009年以降の首都圏における新築投資用マンションの供給エリア(市区別)をみれば、毎年のベスト5は、ほぼ東京23区のいずれかとなっています。
2009年~2020年までの13年間のベスト5(のべ65)のうち、横浜市中区が2回や川崎市川崎区1回、川崎市中原区が1回ランクインしていますが、それ以外の61分は東京23区となっています。しかし、21年は上位5エリアのうち、3位と4位は東京23区外でした(横浜市南区、川崎市中原区)。
こうした傾向は、需要が旺盛ながらも、都心部に「投資用マンション適地」が不足しており、デベロッパーが適地を求めて23区外に目を向けているからでしょう。
このところの深刻な適地の不足は販売戸数にも表れており、23年上期(1~6月)に供給された新築投資用マンションは56物件、2820戸となっていますが、これは22年上期の84物件、3678戸に比べて3割以上の減となっています。

また、23年上期の供給エリアのランキング上位では、1位横浜市南区、2位横浜市中区、3位横浜市神奈川区、ですべて横浜市内となっています。
また、全体に占めるこの3地区の割合は32.3%となっています。つづいて4位は東京都江東区、5位は川崎市中原区と、これまでとはだいぶ状況が変わってきています。

東京23区では、投資用マンション適地を獲得するための競争が、同業他社間だけでなく、異業種(例えば、一般分譲マンションビジネスホテル)間でも激化してきており、先に述べたように横浜や川崎での供給が増えるものと思われます。
今はまだ23区内に比べて、㎡単価は多少低いとおもわれますので、23年の首都圏全体での平均単価は下がる可能性があります。
しかし、このような地域でも、今のような旺盛な需要が続けば、投資用マンションの価格上昇可能性は極めて高いでしょう。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。