不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

東京圏の地価公示分析~マンション用地需要が商業地地価を底上げ~

【目次】

―東京圏全体の地価公示の状況
―地価公示における、住宅地と商業地とは?
―東京圏商業地の状況
―東京圏住宅地の状況
―新線開通で、投資用のマンション人気エリアが広がる?

首都圏の分譲マンション価格が過去最高水準、そして投資用のマンション価格も過去最高水準となっています。そんな中、不動産市況を映し出す最新の地価が公表されました。
3月22日に国土交通省から2023年1月1日時点の地価公示が発表されました。

全国全用途(住宅地・商業地・工業地・宅地見込み地)平均は昨年から上昇率を1.0ポイント上回り1.6%の上昇で、2年連続のプラスとなりました。
2000年以降ではミニバブル期の2008年に1.7%上昇しましたが、それに次ぐ大きな伸びとなりました。
今回のコラムでは、東京圏の地価の分析してみたいと思います。

東京圏全体の地価公示の状況

東京圏(東京都区部や多摩地区、神奈川県・千葉県・埼玉県の主要地域など)では全用途平均で2.4%の上昇(前年は0.8%の上昇)、住宅地は2.1%の上昇(前年は0.6%の上昇)、商業地は3.0%の上昇(前年は0.7%の上昇)となりました。
いずれも昨年よりも上昇幅が拡大しました。住宅地は、昨年に引き続き23区全てで上昇、また上昇幅も全区で拡大しました。

地価公示における、住宅地と商業地とは?

3月に国土交通省から公表される地価公示や9月に公表される基準地価(調査主体は都道府県、公表は国土交通省から)では、調査地点(=標準点)は用途別で分類されており、上で述べたように用途別で地価の上昇率などが発表されます。
国土交通省によれば、各用途は以下のように定義されています。

(国土交通省サイトより、引用)
「住宅地」とは、市街化区域内の第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域及び第二種住居地域並びにその他の都市計画区域内並びに都市計画区域外の公示区域内において、居住用の建物の敷地の用に供されている土地をいう。

「商業地」とは、市街化区域内の準住居地域、近隣商業地域及び商業地域並びにその他の都市計画区域内並びに都市計画区域外の公示区域内において、商業用の建物の敷地の用に供されている土地をいう。

以上のように定義されていますが、投資用のマンション(主に単身世帯向けマンション)は、利便性を重要視することから商業系地域内に建築されることが多くなります。
そのため、投資用のマンションの価格動向などの市況を推し量るためには、商業地地価は商業用の建物の敷地に使われている土地の価格ですが、土地取引の上では競合する関係にありますので、住宅地よりも商業地を見る方が分かりやすいといえます。

東京圏商業地の状況

このような理由から、まず商業地の分析から行うことにします。

商業地は、昨年は23区のうち中央区・港区・千代田区はマイナスでしたが、今年は23区全てでプラスとなりました。
再開発が進んで利便性の向上した地域や新型コロナウイルスの影響が薄れた繁華街や観光需要が旺盛な地域の上昇が目立ちました。
中央区銀座地区がマイナスからプラスになったことや、浅草地区の大きな伸びが目立ちました。

回復から3%台の伸びになった背景には、

①都市部を中心に店舗など商業施設、そしてオフィス需要が回復している事
②都市型のマンション向け用地需要が引き続き旺盛な事
③各地で再開発が行われ利便性が向上している事
④国内外からの来訪客が戻り、人流が回復して繁華街などでの店舗需要が回復している事

などが要因としてあげられます。
特に、②については先にも言及したように、投資用のマンション(単身世帯向けマンション)価格を押し上げる要因となっており、またマンション適地不足から、かなり高値で土地が取引されている状況が続いています。

東京圏の商業地における地価上昇率は、2016年以降は4%を超え、19、20年は7%前後の上昇となりました。
その後21年分では新型コロナウイルスの影響大きくマイナスとなりました(-1.9%)が、すでに23年は3%の上昇となっています。

東京圏住宅地の状況

次に、東京圏の住宅地は2.1%の上昇(前年は0.6%の上昇)で、昨年に引き続き23区全てで上昇、また上昇幅も全区で拡大しました。
とくに、国土交通省の資料では「特徴的な地価動向」が見られた地点として、駅前再開発の進む中野区や、足立区の綾瀬駅周辺などがあげられています。
東京圏を形成する都県では、東京都の住宅地地価の変動率は+2.6%、神奈川県は+1.4%、千葉県+2.3%、埼玉県+1.6%とすべて前回比プラス、かつプラス幅も大きくなっています。
好調ぶりがうかがえます。

他の関東圏の県では、茨城県±0%、栃木県-0.6%、群馬県-0.8%となっています。
これらの3県でもマイナスの幅が減少し、回復のキザシが見えます。
県庁所在地をみれば、東京23区+3.4%、横浜市+1.5%、千葉市+1.9%、さいたま市+2.8%、水戸市-0.3%、宇都宮市+0.7%、前橋市-0.5%となっています。

新線開通で、投資用のマンション人気エリアが広がる?

3月18日に開業した相模鉄道と東急電鉄の直通線「新横浜線」により、沿線住民の東海道新幹線新横浜駅へのアクセス、また新宿・渋谷・目黒の各山の手線駅、さらにそのうち側エリアへのアクセスが大きく向上しました。
「新線」沿線、また「新線」と連結された路線の駅周辺では高層マンションを含む複合施設の建設など再開発が進んでいます。

新しく誕生した新綱島駅、新横浜駅などがある横浜市港北区の住宅地は2.6%上昇、また羽沢横浜国大駅(横浜市神奈川区)近くの標準点では5.3%上昇となりました。
今後こうしたエリアにおいては、単身世帯向けのマンション建設が、これまで以上に進むものと思われます。
23年の地価公示では当該エリアの商業地の上昇は住宅地に比べて大きくありませんでした。
しかし、マンション適地の取引が活発になれば、住宅地、商業地もより大きな地価上昇が見られるでしょう。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。