不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

東京23区が初の転出超過に。変化が大きい世代はどこか?3つのグラフで徹底解説!

【目次】

―全国の人口移動の状況
―特徴的だった2021年東京都と東京23区の状況
―変化が起こっているのは子育て世代
―新型コロナウイルスの影響は若年層にどれくらいあったのか?

先ごろ、総務省統計局から21年12月の住民基本台帳の基づく「人口移動報告」が公表されました。
これにより、21年1年間の我が国における人の移動状況を知ることができます。住所を移しての人の移動は住まいの移動ともいえます。
ニュースなどでも大きな話題となりましたが、東京23区では比較可能な2014年以降初めて転出超過(転入者―転出者がマイナス)になりました。

この数字をみて、東京を離れる方が増えている、地方に移住する方が増えている、という安直な解説を見かけましたが、データを細かく見えると、確かに変化がみられる世代と、あまり変わらない世代があることが分かります。本稿ではそのあたりを細かく見てみましょう。

全国の人口移動の状況

2021年の都道府県間の移動者は、日本人、外国人を合わせると247万6640人で、20年分からプラス12,648人(+0.5%)となりました。
2020年は移動者数が前年に比べてマイナス104,094人と大きく減少しました。21年はもう少し増える(=戻る)とも思われましたが、大きく戻らなかったという結果となりました。
いまだ新型コロナウイルスの影響が大きく、移動者が減っている状況が続いているものと思われます。

20年は東京都を除く46道府県で転出数が減りましたが、21年はその反動もあり24都道府県で増加となりました。
3大都市全体では65,873人の転入超過となりましたが、これは前年比でマイナス15,865人、2年連続の転入超過数縮小となりました。

都道府県を跨いだ方を年齢別に見れば、例年通り22歳が最も多くなっています。
就職を機に移動する方が多いものと思われます。10代後半~20代後半での移動が全体の多数を占めている傾向は変わりません。

また、18歳の移動は2020年に比べて約5000人増えました。大学などへの進学を機に移動するものと思われますが、大学などの授業が徐々に再開されたからなのでしょう。
また20代合計でも、2020年に比べて都道府県を跨いだ移動が大きく増えました。
ご承知のとおり、進学、就職を機に移動する方の大半は、新しい地での住居は賃貸住宅です。
2020年は大学近隣の賃貸住宅に空室が目立ちましたが、いくぶん回復のキザシが見えてきたようです。

特徴的だった2021年東京都と東京23区の状況

メディアでも大きく報道されていましたが、東京都の転入超過数は10,815人(日本人のみの集計)で、2019年の86,575人から、87%もの大幅なマイナスとなりました。
しかし、転入がプラスであることには変わりありません。

新型コロナウイルスの影響が色濃く出た2020年の数字では、転入超過数が3万8,374人でしたので、影響2年目といえる2021年では大きく状況が変化しているようです。
また、東京23区においては、年間の転出者が転入者を上回る転出超過となりました。
東京23区が転出超過となったのは、外国人を含めた集計を開始した2014年以来初めてで、日本人のみの統計で遡っても1996年以来、25年振りのことです。

図1をみれば、コロナ禍前の2019年まで5万~7万人程度の転入超過で推移してきましたが、2020年以降は新型コロナウイルスの影響が色濃く出ていることが分かります。

ちなみに、東京圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)で見れば、81,699人の転入超過となり、前年比でマイナス17,544人、これは2年連続のマイナスです。
都県別にみると、全ての都県で転入超過であり、東京都は5,433人(外国人も含めた集計)、神奈川県は31,844人(外国人を含めた集計)、埼玉県は27,807人(外国人を含めた集計)、千葉県は16,615人(外国人を含めた集計)でした。

神奈川・埼玉・千葉県では、転入超過数が増加したのに対して、東京都では転入超過数が2年連続の減少となりました。
前年の転入超過数は31,125人(外国人を含めた集計)でしたので大きく減少したことになります。

変化が起こっているのは子育て世代

この人口移動報告は、5歳刻みで集計されています。そのため、年代ごとの傾向が分かります。
確かに東京23区は転出超過となりましたが、その背景には子育て世代と呼ばれる30~44歳の転出増加があります。

図2は、2021年の年齢別の転入・転出超過の状況を示したグラフです。
これをみると、進学・就職の世代、15~29歳においては転入超過になっています。
一方30代~40代前半の子育て世代は転出超過、また子供世代も転出超過となっており、このように子育て真っただ中の家族の転出が目立っています。

では、年代別に新型コロナウイルスの影響がどれくらいあったのかを見てみましょう。

新型コロナウイルスの影響は若年層にどれくらいあったのか?

図3は、東京23区の転入超過・転出超過の年齢別の状況を2019年と21年で比較したものです。

図3をみれば、30代・40代で転出超過が大きく増えた様子が分かります。
東京23区において、2019年は30~44歳では転入超過119人だったのが、21年は転出超過34,549人と大幅に増えています。

また、その子供世代にあたると思われる、0~14歳において、2019年は転出超過7,120人だったのが、21年は転出超過16,886人と、こちらもかなり増えています。
10代後半、20代前半の進学・就職世代は転入超過が多少の落込み程度に留まっています。

つまり、「リモートワークの浸透で郊外に転居しているのは、概ねファミリー層であり、若年層は、こうした傾向はあまり顕著ではない」ということが数字の上から推測されます。
進学、就職での転入者の大半が、少なくとも結婚して子供を持つまでは賃貸住宅に住むことが多いことから考えると、首都圏とくに東京23区における賃貸住宅需要は、大きな落ち込みはないものと思われます。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。