不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

新型コロナウイルスの影響でマンション投資が過熱するのはなぜか?~インフレヘッジになる賃料収入~

3月末に公表された公示地価では、全国的なマイナスが見られました。しかし、公的機関、民間シンクタンク等が定期的に発表する不動産価格に関する指数をみると、20年4月前後に瞬間的な下落がありましたが、それを除けば上昇が続いています。
実需用(所有者自らが住む)新築・中古マンション、投資用のマンションとも、全くと言っていいくらい勢いが止まらず、価格上昇を続けています。東京都では2010年1年間の平均を100とすると、2020年年末は160に迫る勢いになっています。主要都市(大都市だけではない)全てでこうした傾向が続いています。今回はその背景を探ってみましょう。

新型コロナウイルスの影響があってもマンション価格は上昇した??

国土交通省による「不動産価格指数」は、年間約30万件の不動産の取引価格情報をもとに、全国・ブロック別・都市圏別・都道府県別に不動産価格の動向を指数化し、毎月月末に公表しています。
この「不動産価格指数」の最新の数字(2020年12月分)が3月末に公表されました。
2020年12月分の不動産価格指数(住宅総合)は前月比プラス1.6%増、前年同月比3.7%増となりました。
前年同月比がプラスとなるのは20年7月以降6カ月連続、指数値では1回目の緊急事態宣言が出された20年4月を除けば、20年1年間は毎月上昇を続けています。
特に区分所有マンションの価格指数は2010年を100とした指数で、全国では158.1となっており10年で1.5倍になったということになります。

商業用不動産に目をやると、こちらは4半期ごとのデータ好評ですが、20年4Qの1棟マンション(アパート)の指数は138.5(2010年平均=100)、前期(=2020年3Q)比でプラス2.8%となっており、マンション投資の勢いが止まっていないことが分かります。

国交省不動産価格指数について

この国土交通省不動産価格指数は、住宅総合では毎月1万戸以上のサンプル、区分所有マンションでは概ね4000件以上、商業用1棟マンションで1500前後のサンプル数となっており、かなり実態に近い状況がつかめるものと思われます。
データそのものは、国土交通省が実施する「不動産の取引価格情報提供制度」により蓄積されたデータを活用、「個別物件の品質」をヘドニック法により調整してたうえで、算出・推計した指数です。
とくに、住宅は、その立地や設備、規格、築年数などの属性が住宅ごとに異なります。

また、住宅の「品質」も日々進化しており、住宅取引も恒常的におこるものではありません。つまり、住宅用不動産は、非常に個別性の強い市場となっています。
そのため、取引価格の価値を推移として把握するためには、住宅の価格変動を、属性の変化によるものと「純粋な価格変動」とに分解する必要があり、このように「品質を調整した」価格指数を作成する方法のひとつがヘドニック法です。
このように、豊富なサンプル数と制度の高い分析方法を併せ持った指標と言えます。

東京の区分マンション不動産価格指数の推移

図1は、2007年4月~2020年12月(最新)までの東京における区分マンション不動産価格指数の推移を示しています。
これをみると、2013年初めごろから価格上昇が始まり、多少のブレはあるものの、現在に至るまで上昇していることが分かります。
新型コロナウイルスの影響は、ほんの一時的で、その後も上昇しています。2010年の平均を100とすると、2020年12月分は158.1となっており、1.6倍くらいということになります。

インフレ懸念

確かに、新型コロナウイルスの影響、緊急事態宣言が発令されて、飲食業や観光、サービス関連業では大苦戦が強いられています。
消費者物価指数などを見ていると、感染者が増え始めた2020年4月以降、マイナスが続いており、決して景気がいい状況にありません。
一方で、日経平均株価は3万円前後で推移しており、影響がほとんどなかった2020年2月後半が23000円前後ですから、概ね1.3倍程度になっています。

このような不動産価格上昇・株価上昇の背景には、政府・日銀による新型コロナウイルスの経済に与える影響などを考慮した、一層の金融緩和政策があると考えられます。
ざっくり言うと国内のお金の流通量を示す、マネタリーベースは21年3月では前年比20.8%のプラスになっています。
20年5月以降、前年同月比は上昇を続けており、俗っぽい言い方をすれば、「極めて、お金がジャブジャブの状況」と言えます。経済学の原則なら、当然のようにインフレになっておかしくない状況ということです。
本来なら、インフレ→金利上昇という流れになるところですが、それをなんとか食い止めていると言っていいのでしょう。
しかし、いつまでも続くと思えません。それほど遠くない未来に、インフレはジワジワとやってくることでしょう。こうした背景から、自由経済原理が働く、株式市場・不動産投資市場では、先を見越して買いが先行しているという状況と思われます。

株価はインフレに連動、株式からの配当もインフレに呼応します。いうまでもなく、家賃(民営賃料と総務省の物価項目では言います)もインフレに連動します。
こうしたインフレ連動資産、インフレ連動収入を確保しておくことこそが、近い将来起こる可能性があるインフレから、わが身を守る手段になるということです。

こうした考えると、「新型コロナウイルスの影響で不動産投資熱、株式投資熱が上がっている」と言っていいと思います。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。