不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

コロナショックの影響はどれくらい?最新!2020年基準地価を読み解く

【目次】

―基準地価とは?なぜ今年の基準地価に注目が集まったのか?
―2020年基準地価の全体全国俯瞰
―ホテルの失速がもたらすワンルームマンション物件への好影響
―2021年はどうなる? 大都市住宅地は上昇の可能性大?

2020年の基準地価が9月29日に発表されました。
全用途(住宅・商業・工業)の全国平均は-0.6%で、2年連続続いたプラスから3年ぶりにマイナスになりました。
全国的に、しばらく右肩上がりで、回復あるいは上昇を続けていた地価ですが、やはり新型コロナウイルスによる影響で、やや失速した状況になりました。
しかし、東京の都心エリア、とくに住宅地は上昇しているエリアも多く、都心では「上昇を続けているエリア」と「上昇しているものの上昇幅が小さくなったエリア」の2極化が見られました。

基準地価とは?なぜ今年の基準地価に注目が集まったのか?

基準地価は7月1日が価格時点となっており、公示地価や路線価といった他の公的な地価調査の価格時点が1月1日ですから、「中間時点での地価」といういう見方もできます。

基準地価は、各基準地につき1名以上の不動産鑑定士等の鑑定評価を求め(公示地価は2名以上と定められています)、これを審査・調整の過程を経て各都道府県知事が毎年9月下旬に公報するものです。そして、都道府県の発表に合わせて、国土交通省が全国の状況をとりまとめて公表しています。

今年は、春先からの新型コロナウイルスの影響が経済に大きな影響を与えていますので、「地価にどんな影響を及ぼしているのか」と、注目されていました。
また、7月に国税庁から路線価が発表された時に、「コロナウイルスの影響で基準地価が広範囲で大きく下落した場合、路線価を減額修正する(=つまり減税)可能性がある」としておりましたので、こちらにも注目が集まりました。
このように注目されていた今年の基準地価、例年は9月20日前後に発表されるのですが、今年は新型コロナウイルスによる調査分析の遅れなのか、公表が9月末ギリギリとなりました。

2020年基準地価の全体全国俯瞰

全国の全用途平均は前年比-0.6%、住宅地は-0.7%、商業地は-0.3%となり、いずれも前年より下落しました。
昨年まで全用途は5年連続のプラス、住宅地は3年連続のプラス、商業地は6年連続のプラスと、バブル崩壊以降では、最も長期間の上昇を続けていましたが、新型コロナウイルスによる影響により影響が出た結果となりました。
ただ、細かくみてみると、すべての要因が新型コロナウイルスによるものかと言えば、それに加えて、特に商業地や一部住宅地において地価押上げをけん引してきたホテル関連投資の一服感も上昇鈍化(あるいは下落)の要因であると思われます。
こうした要因などから、三大都市圏の商業地の上昇は大きくブレーキがかかっており、前年は大都市(東京圏・大阪圏・名古屋圏)においてはプラス5.2%でしたが、今年はプラス0.7%とかろうじてプラスに留まりました。
 
もちろん、上昇した地点もあります。地価公示の価格時点(1月1日)と基準地価の価格時点(7月1日)の間に、都心の超一等地では、高輪ゲートシティー(JR)と虎ノ門ヒルズ(東京メトロ)の2つの新駅が開業しました。このようなインフラ整備が進んだ場所や再開発が進んだエリアやその周辺ではかなり上昇しています。
また、ワンルームマンションが多く供給されている都心や周辺地域の住宅地では概ね上昇が続いています。

ホテルの失速がもたらすワンルームマンション物件への好影響

インバウンド観光を見込んで過剰なまでに建てられたホテルにおいては、稼働率の低下が懸念されており、投資意欲の減退傾向が散見されるようになりました。そこに加えて新型コロナウイルスによる影響で実質的に海外からの観光客は実質的にストップしています。
ここ7~8年間、都市部において、ビジネス用ホテルや小規模都市型ホテルの用地は、分譲マンションや投資用ワンルームマンションと競合していました。

ホテルの用地仕入れの強気度合いに押される格好で、マンション業界は入札に苦心していました。
しかし、今述べたような状況を考えると、この先、マンション業界は多少用地が仕入れやすくなる傾向に向かうと思います。来年再来年に竣工する物件が楽しみと言えます。

2021年はどうなる? 大都市住宅地は上昇の可能性大?

今回の基準地価は、新型コロナウイルスによる影響を全て盛り込んだものなのかどうか?に注目があつまります。
もし全て盛り込んだものとするならば、1年後の基準地価は横ばい、もしくは上昇の可能性があります。
しかし、新型コロナウイルスによる影響が出始めたのが3月からだとすれば、価格時点である7月1日は約4カ月ですので、その後の経済回復の状況をみれば、だいぶん盛り込んではいるものの、全て盛り込んでいないと判断すべきでしょう。特に商業地ではこうした傾向にあると思われます。
すでに金融の世界では、新型コロナウイルス蔓延前の状況に戻っていますが、実経済の回復は、じわじわゆっくりと元に戻りつつあるという状況です。

しかし、ここに来て明るい兆しも見え始めました。
開催が危ぶまれていた東京オリンピックは1年の延長を経て開催されるという報道が増えてきました。
また、海外との行き来についても、徐々に制限解除の方向に向かっています。もうしばらくすると、だいぶん緩和されて海外からの来訪者も増えそうです。
このようにポジティブな光もだいぶんみえてきましたので、新型コロナウイルスが再び蔓延することがなければ、実経済の回復も少しは勢いがつくのではないでしょうか。

こうして考えると、来年9月に発表される基準地価は、大都市圏の住宅地は上昇の可能性が高く、商業地においても、エリアによっては大きく落ち込む地域もあるかもしれませんが、概ね今年並みか少しの下落程度になると予測します。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。