不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

コロナショックで再認識されるワンルームマンション投資の優位性

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が全国に出されていた頃、「この先不動産市況はどうなりそうか」がなかなか見えない状況でした。

しかし、(日本では)3月半ばからのコロナショックから4カ月以上経ち、だいぶん見れてき始めました。
商業施設の不振、ホテルの不振、そしてここに来てオフィス市場の不振が見えはじめました。
一方で、購買変化に伴う物流施設不動産の価値上昇と賃貸住宅市場の底堅さ、も浮かび上がってきました。

【目次】

―徐々に顕在化してきたオフィスの解約
―オフィスビルへの投資マネーの行き先
―バブル崩壊後も大きな落ち込みのなかった住宅賃料
―長期的視点でのワンルームマンション投資

徐々に顕在化してきたオフィスの解約

オフィス仲介業者、(株)CBREによると、東京23区のオールグレード(S・A・B・C・・)空室率は0.8%と依然かなり低い水準ですが、前期(四半期ベース)に比べると0.2ポイント上昇したということです。
コロナショックでリモートワークが広がり、契約の保留やキャンセルがみられるようになり、空室消化ペースが鈍っているようです。

また、飲食店・アパレルといった来客型テナントの閉店に伴う解約も増えていたり、企業経営の効率化を図るためにグループ会社を集約して、使わなくなったスペースを解約したりと、まとまった新規契約もありながら、トータルでの空室は増えているようです。チェーン店系の飲食店の大量閉店がこれから数千店舗という単位で始まります。
報道によると、こうしたオフィスの解約傾向は、リモートワークを導入しやすいIT系企業が多く入居する渋谷エリアのビルで顕著に見られているようです。
それに伴い、オフィス賃料はオールグレードで1坪当たり2万3,470円(前期比0.2%下落)で2012年第2四半期以来、約8年ぶりに下がったということで、「働き方の変化」にともなう、「オフィスのあり方の変化」が感じられます。
こうした傾向は、東京都心だけでなく、大阪や名古屋のビジネスエリアのオフィスビルでも同様の傾向にあるそうです。

オフィスビルへの投資マネーの行き先

こうした傾向を先取りする形で、JREIT市場に大きな変化が見られます。
7月の上旬に、物流施設100%のJREIT銘柄である日本プロロジスリートが、それまで長くJREIT時価総額トップだった日本ビルファンドを抜いて時価総額トップになりました。
8月3日時点での利回りは日本プロロジスが2.64%、日本ビルファンドは3.63%となっています。
この利回りの差は、7月に入ってから徐々に大きくなっています。(物流系が下がり、オフィス系が上昇)ECが進むことでますます重要拠点となることが間違いない物流施設の勢いを感じさせるとともに、オフィスビルの今後は大丈夫か、と感慨深いものがありました。

バブル崩壊後も大きな落ち込みのなかった住宅賃料

1980年代後半から1990年ごろ(首都圏における地価ベースでのピークは1991年)までのバブル期において住宅価格は大きく上昇します。
単独世帯用の住居(おもにワンルームマンション)価格は1986年を100とすると1991年には約2.5倍になります。
そして、1992年から約10年もの間、価格が下がり、2001~2年ころには再び100に戻ります。この間の住宅賃料は、1986年を100とすると、1990年代初めには120、そして1990年代後半には125~130程度になり、その後は横ばい基調になります。
つまり、価格は乱高下した間にも関わらず、賃料はあまり大きな動きがなく、やや上昇~横ばいという流れになっています。

バブル崩壊の時は、不動産価格だけでなく経済的にも大きなショックを経験しました。
しかし、大きなショックの間も「住まい」の為に支払われるお金は大きな変化がないという事です。一般的に、日本では住まいにかけるお金は所得の30%前後だと言われています。
つまり、「所得が大幅に減る」ということがなければ、住まいにかけるお金=家賃を大きく下げるような行動をとらないと言えます。
この先、企業業績が悪化(あるいは悪化可能性が高まり)すれば、多少所得の減少がみられるかもしれません。
もしそうなったとすれば、先に消費を止めるのは、外食や旅行といった分野にかけるお金を減らすことになります。

現在は、新型コロナウイルス感染者数が増えている報道が盛んにされていますので、「自粛ムード」が蔓延しています。
そのために、旅行や外食を控える方が多くいますが、今後「自粛ムード」が解けても、もし企業業績悪化~所得減少可能性が高まれば、さらに旅行や外食に使うお金を減らす可能性があります。
では、「企業は従業員に対する支払いを減らすのか」ということですが、一般的に企業は、労働者への支払いより先に、オフィスなどの固定費を先に削減します。
そのため、先に書いたように、オフィス市場で調整局面が出始めるわけです。

長期的視点でのワンルームマンション投資

こう考えると、日本における住宅市場とくに賃貸市場に大きなインパクトを与えるのは、所得であると言えるのではないかと思います。
加えて、もう少し長いスパンで考えるならば、大きな危惧は人口減少もあげられます。
日本において人口減少はすでに始まっていますし、この傾向を止めることはできそうにもありません(とても多くの移民が来るとかあれば別ですが)。
しかし、これからの日本は今以上に単独世帯が増えることが確実であり、それにあったサイズの住宅需要は今後も増えることが予測されています。

ワンルームマンション投資は2013年頃から順調に伸び続け、2018・19年頃から「そろそろ天井か?」と言われながらも、大きな落ち込みがない状況でした。
そのため、新型コロナウイルスの経済への影響が出た直後は、取引が止まっていたために成約件数は落ち込みました。
また、時折投げ売り的な物件もありました。しかし、ここに来て、価格下落の様子が見られず、堅調に取引が行われています。こうした傾向は、今後も続くと思われます。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。