不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

新型コロナウイルスが不動産市況に与える影響(2020/5/7)

【目次】

―緊急事態宣言解除のトレードオフ
―いま、不動産市況はどうなっている?
―ワンルームマンション投資の底堅さ

新型コロナウイルス、緊急事態宣言解除のトレードオフ

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言は5月末日まで延長となりました。4月27日(月)以降は、東京をはじめ多くの都市で新規感染者が減少基調にあります。
また一人の感染者が何人にうつすかの数字も、1を大きく下回ってきているようです。
しかしながら、専門家によるとまだまだ予断を許さないという状況のようで、政府は各地の知事の要請に応える形で5月末までとしたようです。

一方で、各方面に営業自粛、営業短縮、休業要請を行っていますので、実質的に日本経済の一定割合が止まっており、経済は相当なダメージを受けています。
そのため、特定警戒13の都道府県以外の県では少しずつ緩和していくこと、と5月14日時点の状況を鑑みて宣言の解除を行う可能性を示唆しました。
しかしこれから半年以上はコロナウイルスが完全に収束することは難しいことは明白で、1度延長してしまうと、「どの数字を見て解除を決めるのか」という難問が待ち構えています。
これこそ、「トレードオフ」の典型で、「どちらをとるか?」悩ましい問題です。
ただ、こうした際に日本では、数字よりも、「ムード」が優先されてきました。結局のところ、「マスコミなどがつくるムード」、「SNSなどのムード」がこれを決まるのではないでしょうか。

いま、不動産市況はどうなっている?

では、現状の不動産市況はどうなっているのでしょうか。

不動産市況(とくに実物不動産の市況)は、株式市場とは異なりタイムリーなデータがなく、たいていのデータが数か月後に公表となりますので、実態をデータで把握するにはもう少し時間を要します。(5月下旬には3月分が出始めます)
緊急事態宣言が出されて以降、ほとんどのデベロッパー・ハウスメーカーあるいは不動産会社は、実質的に新規の営業をストップ(営業行為=接触行為の自粛)しており、営業担当者も在宅勤務をしている状況です。
特に大手企業は、「緊急事態宣言が延長されたら、それに合わせて営業自粛期間を延長する」としていますので、4月・5月の受注・取引成立は、大幅減となることは間違いなさそうです。

こうした状況ですので、別の角度から市況を見てみることにします。

不動産証券化商品であるJREITは株価と同じくタイムリーで投資口価格が分かります。ここからはJREITデータを見ながら、不動産市況を分析してみます。

JREITが大きく値を下げたのは3月19日前後で、2月下旬頃まではかなりの高水準でしたので、そこから一気に半減しました。
東証REIT指数(全体)は2月20日ごろ 2250ポイント辺りだったものが、3月19日には1150ポイント前後になっています。
現在はそこから少しもどしており(4月30日AM:1600ポイント前後)、ピークからは概ね3割減といったところです。

少し細かく分野別にみると、ホテル系REITは(下落ピーク)約70%減→(直近の水準)60%減、商業系が約60%減→55%減、オフィス系45%減→30%減、となっています。
これらが戻すのには相当な時間がかかると思います。(数字は概数:以下同様)

逆に落ち込みが少ないのは 住宅系45%減→15%減、物流系20%減→5%減、と巣ごもり消費による通販の進展が物流業の後押しになっていますので、これに好感を示していることがわかります。
また、不動産の中でも最も安定感のある住宅系投資ですが、この時勢でもレジ系は、多少落ち込みがあるものの安定感を見せています。

ワンルームマンション投資の底堅さ

住宅賃料についてですが、緊急事態宣言・自粛ムードがいつまで続くか分かりませんが、予定通り5月末で解除(もしくは、その前に解除)だとすれば、今後の住宅賃料にそれほど大きな影響はないと思います。
長期的に見て日本の住宅賃料はインフレ連動していますが、景気低迷期に目だった下げは起こしていません。
しかし自粛ムードが長引くとすれば、ある程度の高額(概ね30万円以上)賃貸物件賃料は下がる可能性があります。
個人事業主、経営幹部層がメインターゲットの物件では所得の減少可能性があり需給バランスが崩れる可能性があるからです。

逆に、ワンルームマンションとくに都心一等地のワンルームマンションの賃料ですが、需給バランスで考えると、ほとんど下がることはないと思います。
理由としては、需要がかなり旺盛な状況が続いており、その傾向はこの先(よほど大きな天災でもなければ)長期的に続くことがあげられます。
また、メインターゲットの若年層~30代の所得に大きな変化はないと思われます。
ネガティブに見るとしても、短期的にみれば、来年あたりもしかすると僅かに下がるかもしれませんが、限定的・かつ一時的にとどまり、すぐに回復、そして上昇基調になると思っています。

一方、オフィス賃料・商業施設賃料は、よく知られているように需給バランスで大きく賃料は上下しています。
このあと半年経つ頃から、商業施設需要はこのあと大きく落ち込む子可能性が高く、商業施設賃料は下落基調になる可能性は極めて高いと思います。
オフィス賃料ですが、現在コロナウイルスのためテレワークが進んでおり、かつ今後も政府は対策のためテレワークを推進しています(もともと、働き方改革で推進していました)。
しかし、足元での大都市部でのオフィス空室率は極めて低く、賃料も高止まりしています。
アフターコロナの「働き方」しだいでは、それほど床面積が必要なくなり賃貸は下がる可能性もあります。もし、あまり大きな変化がなければ、オフィス賃料はもうしばらく高止まりすると思います。
  
こうしたムードが良くない時ほど、都心ワンルームマンション投資の良さが浮き彫りになることでしょう。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。