不動産投資の税金と節税

【税理士に聞いた】「路線価否認」判決で相続税対策はどう変わる?
Part③不動産投資で相続税対策するときのポイント

2022年4月、不動産相続税に対する追徴課税をめぐる裁判で、国が自身のルールである路線価の利用を否認する異例の判決を出しました。
これから不動産の相続税対策はどう変わるのでしょうか?

この記事では、不動産の相続税対策の仕組みと事件の経緯をお伝えしたPart①、追徴課税が合法と判断された理由と背景を解説したPart②に続き「今後、不動産投資で相続税対策をするにはどうしたらいいのか?」について、不動産管理や相続税に詳しい税理士、ジーマック松木事務所の松木昭和先生に解説して頂きました。

ジーマック松木事務所

税理士 松木昭和

1963年1月4日生まれ。
ジーマック松木事務所を中心とするジーマックグループの代表を務める。
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修了(MBA取得)。
85年の開業以来、税理士、行政書士・社会保険労務士・宅地建物取引主任者と各種の資格を生かし、開業から経営まで法人個人問わず総合的コンサルティングを行う。大手都市銀行、新聞社で経営・税務に関する講師を務める。独立開業者向けセミナーにて数々の講演を行う。『週刊ダイヤモンド』等、ビジネス雑誌にも数多く執筆。

今回の事例から考えられる具体的な対策ポイントや、問題にされやすい不動産相続・贈与の例をみていきましょう。

【目次】

1.不動産投資で相続税対策をするときのポイント
2.問題になる可能性が高い不動産相続・贈与の例
3.今後同じような事例は起こるのか?
4.まとめ

【前の記事はこちら】

Part①不動産の相続税対策と事件の経緯
Part②追徴課税が合法と判断された理由と背景

1.不動産投資で相続税対策をするときのポイント

今回の判決では「路線価の否定」に注目が集まりましたが、路線価の利用自体は合法であり、節税を重視するあまり不自然な取引をしていたことが一番の問題でした。
納税は国民の義務であり、明らかな税金逃れは認められません。

不動産投資の相続税対策は、「一般論で考えて不自然ではないか」がポイントになります。

例えば、今回の事例では6億しか資産のない90歳の人が、10億円以上の借金をして約14億の物件を買っています。
日本人男性の平均寿命からすると、余命はあと数年なのに借金までして大きな物件を買うのは、投資目的としては不自然です。

ふつうの不動産投資なら、総資産が10億円ある方が数千万程度のマンションを1~2件購入する、または数千万のマンションを1~2部屋買うくらいが妥当でしょう。

また、不動産は相続後すぐの売却は、資金確保の動きがあると判断される可能性があるので控えた方が無難です。
さらに、修正申告をすると悪目立ちして、より詳しい調査が入るきっかけになるので申請は1回で終わらせること、納税額が大きい人は特に注意を払うことも重要といえます。

不動産をつかって相続税対策をするときに心がけるべきなのは、節税のために不動産投資をするのではなく、「投資目的で不動産を購入した結果、相続税が安くなった」という姿勢です。

2.問題になる可能性が高い不動産相続・贈与の例

今回の事例のように極端な節税対策は非常にリスクが高くなります。問題とされる可能性が高い不動産の相続や贈与の例をみてみましょう。

・95歳の人がマンションを数億円分まとめて買う
・マンションを買って3歳の子に贈与した
・末期がん余命3ヵ月の宣告を受けてマンションを買う

かなりの高齢で突然始める大きな投資や不自然な人への贈与、若い人でも余命宣告後の投資は、相続税対策という目的が明確なので調査されるとみていいでしょう。
これまで不動産投資をしていなかった人の急な動きはチェックされやすい傾向があります。

一方、今まで継続的に不動産投資をしていた方が亡くなる前に多少増やしても、事業の一環であると言えるでしょう。
健康な75歳女性がワンルームマンションを買う、80歳の人が1~2部屋買う、健康な30代の人が数億円分買うなどは通常の投資の範囲内ですから、あまり心配はいりません。

相続税評価に関わる物件は、いつ買ったかではなく、「客観的に見て購入が不自然ではないか」が重要なのです。

3.今後同じような事例は起こるのか?

不動産投資家にとっては「今後同じような事例が起こるのか?」が最も知りたいことでしょう。
私個人の意見としては、「可能性はゼロではないが、滅多にこの判断が下されることはない」と思っています。あったとしても1万件のうち1~3件程度ではないでしょうか?

なぜなら、今回の判例は国税のルールを国税庁自身が否定したのと同意だからです。路線価は国税庁が相続税の算出の基準の一つとして設定したものであり、申請方法に何も違法なことはなかったのですから、そうそうこのような判決を出すわけにはいかないでしょう。

それを裏付ける理由は、さらに2つあります。

①問題とする明確な基準がない

財産評価基本通達総則第6項に「著しい不都合があった場合は国税庁長官の指示指導のもとに違う評価をすることができる」とあり、今回はそれが適用された形です。
しかし、「著しい不都合」に対して具体例や明確な基準が設けられていないため、個人の裁量にゆだねた結果を咎めることは難しいのです。

②評価額が実勢価格より低いのは当たり前

今回の事例では、路線価(評価額)が実勢価格より大幅に低かったことも問題が起こった一因でした。
しかし、評価額は土地と建物のみの金額であり、仕入れや人件費などの諸費用を含む実勢価格より安いのは当たり前です。
実勢価格より低いことを理由に評価額の使用を止める判決も、本来は出せないはずなのです。

以上のことからも今回の判決は非常に珍しい事例であり、過度に不安になる必要はないと私は考えます。

ただし、まったく起こり得ないとは言えません。今後、相続を見据えて不動産投資をする場合は、あからさまな節税目的にしないなどのポイントを押さえておいた方が良いでしょう。

4.まとめ

2022年4月、路線価を使った不動産の相続に対して追徴課税の判決が出されました。
申請に違法性はなかったこと、国税庁が設定した路線価の使用を国税庁自身が否定する形になったことで、極めて異例だと物議を醸しました。

この事例は、19億9000万円を相続したにもかかわらず相続税を0円とした金額の大きさ、90歳の方が10億の融資を受けて購入した経緯などから、明らかな節税目的であり、不平等さが目立ちすぎると判断された結果です。

路線価の利用は法に認められた一般的なものであり、不動産投資で節税対策を行っても、めったにこのような事例は起こらないでしょう。
ただし、可能性は0ではありません。あからさまな節税行為は控えるなどの配慮をすることが大切です。

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Part①不動産の相続税対策と事件の経緯
Part②追徴課税が合法と判断された理由と背景