不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

最新キャップレート分析 ワンルームは史上最低を更新

キャップレートは、利回りの妥当性を判断する基準ともなり、多くの不動産投資家が気にする数字です。
また、キャップレートの変化は、投資家の意欲を測る指標とも言えます。

賃貸住宅購入、賃貸住宅建築、賃貸用オフィス購入など不動産投資で重要な意味を持つ数字です。
キャップレートはいくつかの機関から公表されていますが、今回は、(財)日本不動産研究所が2023年5月30日に発表した第48回「不動産投資家調査」(調査時点:23年4月:アセットマネジメント会社・デベロッパー・商業銀行・投資銀行・生命保険会社・不動産賃貸業などへのアンケート調査)のデータをもとにキャップレートの動向を解説します。

最新の各アセットのキャップレート動向

最新のキャップレートをみれば、不動産種別、地域ごとに動向に違いが見られました。

賃貸住宅では、東京(城南エリア)が、本調査開始以来最も低い値を更新(前回も最低値を更新でしたの、連続して更新)し、多くの地方都市でキャップレートは前回(22年10月調査)より低下しました。
「不動産投資家の投資意欲が引き続き旺盛である」ということと、「投資物件価格が引き続き上昇している」ことが、分かります。
オフィスビルのキャップレートは、多くのエリアで横ばいでした。キャップレートが低下した地点は、東京赤坂、京都、広島の3エリアのみとなり、国内で最もキャップレートの低い東京丸の内・大手町エリアは、久しぶりに横ばいとなりました。

それでも同地点のキャップレートは3.2%で2000年以降最低値(前回と同値)となっています。
宿泊特化ホテル(≒ビジネスホテル)では、国内移動が再び活発化、インバウンド観光需要の回復を受けて、札幌・名古屋・大阪・那覇で前回より低下しました。
最も低い東京(JR/地下鉄の主要駅周辺徒歩5分以内の立地を想定、築5年未満、100室程度)で4.5%となっています。

賃貸住宅ワンルームタイプのキャップレート

ここからは、賃貸住宅にフォーカスして解説しましょう。

ワンルームタイプ(注:ワンルームタイプは25~30㎡、築5年未満、駅徒歩10分以内の想定)の賃貸住宅(一棟)のキャップレートは、調査を行った全国主要都市(10都市)のうち、東京城南・名古屋・大阪で0.1ポイント低下しました。
それ以外の7都市では横ばいとなっています。前回調査時は、8都市が最大0.3ポイント低下しましたので、全国的に見れば、横ばい傾向というところでしょう。

 

しかし、図1の通り、東京城南(目黒区・世田谷区、渋谷駅・恵比寿へ電車で15分圏内想定)。では3.8%となっており、過去最低を更新、他の都市においても過去最低水準にあります。

図1のように、2012年以降、多くの都市では、キャップレートは、(時折横ばいの時もありますが)ほぼ右肩下がりで推移しています。
このことからも、賃貸住宅への投資派一時的なブームという状況ではないといえるでしょう。
また、東京城南地域の想定物件の実際の取引における利回りは前回3.6%でしたが、今回はこれを下回り、3.5%となっています。

グラフにはありませんが、東京城東エリア(墨田区・江東区、東京駅・大手町駅へ電車で15分圏内想定)では、キャップレートは4.0%でこちらも史上最低水準が続いています。
また、実際の取引における利回りは、3.7%となっており、ともに前回調査から低くなりました。

このように23年に入っても極めて低いキャップレートと推移しており、東京都心はもとより、全国主要都市で、引き続き賃貸住宅投資熱の高さがうかがえます。

ファミリータイプの状況

ファミリータイプ(注:想定は広さ50㎡~80㎡、築5年未満、駅徒歩10分以内の想定)でも同様に、全国主要都市のうち6都市(東京城南・横浜・名古屋・大阪・広島・福岡で0.1~0.2ポイント低下しました。

東京・城南地域(想定条件はワンルームと同じ)では、前回4.0%から3.9%へ下落、ワンルームと同様に調査開始以来最低となり、想定物件の実際の取引における利回りは3.6%となっています。

また、東京・城東地域(想定はワンルームと同じ)では、4.1%でこちらも下落傾向にあります。実際の取引利回りは3.8%となっています。
東京都心のファミリー物件では過去最高に低い数字となっています。
これまで、キャップレートは、比較的賃貸住宅需要が旺盛で手堅いワンルームタイプの方が、ファミリータイプに比べて低い傾向にありました。

しかし、このところの動向をみれば、ファミリータイプのキャップレートも低下基調で、多くの地域でワンルームもファミリータイプもほぼ同じ値となっています。

また、期待する利回り(=キャップレート)よりも、実際の取引利回りが低くなっており、つまり期待する利回りに達していなくても購入している現状にあるということです。多くのお金が流れ込んできている様子がうかがえます。

まだまだ投資意欲は高い

同調査では、不動産への新規投資意欲について、専門家へのアンケートも実施しています。
この結果は大変興味深いもので、ほぼすべての方が今後1年間も積極的に新規投資を行う意向を示しています。

「今後1年間の不動産投資に対する考え方」の項目の回答では、「新規投資を積極的に行う」の回答が96%もあり、前回よりも1ポイントの上昇、逆に「新規投資を控える」の回答は3%に留まり、前回調査から2ポイント低下しました。

当面は金融緩和政策が続く見通しとなり、不動産市況はまだまだ活況が続きそうです。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。