不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

不動産投資の専門家は、現在の市況をどうみているのか?

目次

―今は買い時?売り時?見解が交錯するのはなぜ?
―誰の見解を聞けば、的確な判断ができるのか
―今後、不動産投資専門家は積極的に不動産投資を行うのか
―期待利回りの変化は?
―ポジティブな解答が多いレジ投資

今は買い時?売り時?見解が交錯するのはなぜ?

不動産投資家と呼ばれる方(会社)がここ10年、大きく増えました。
かつては、不動産会社や金融機関、そして不動産専門投資というビックプレーヤーに加えて一部富裕層が、おもにキャピタルゲイン(値上がり期待)を狙った不動産投資を行っていました。
しかし近年は、キャピタルゲインだけでなく、不動産を通じての収入を期待するインカムゲインへの注目が高まり、不動産投資の裾野が広がりました。

高収入スペシャリスト業(医者など)をはじめとした高い給与をもらう方はもとより、副業としての「サラリーマン大家さん」やOLの方々で、「この10年に新しく不動産投資を始めた」という方も多いようです。
また、事業会社がサイドビジネスとして不動投資を行い、賃料収入をえることで、売り上げの波の下支えになっている事例も多く、新たに取り組む企業も増えています。

このように不動産投資家が増えてくると、それぞれの思惑が異なり、「今は買い時だ」や逆に「今高いから、もう少し待った方がよい」などと、いろんな見解が交錯します。
今はまさに、そんな時代だといえます。それでは、現状の不動産市況を見定めるには、どういう声に耳を傾ければいいのでしょうか。

誰の見解を聞けば、的確な判断ができるのか

「データを細かく分析して投資を行っている方」の見解がもっとも的確だといえるでしょう。
昨今の「新型コロナウイルスにより緊急事態宣言を解除すべきかどうか?」と似ています。
「市中の多くの方の見解を聞く」、あるいは「テレビなどの報道番組での出演者の見解を聞く」よりも、「数多くのデータを冷静に分析して、適切に判断する」が最も適格だといえます。

不動産・住宅分野では、日次INDEXや月次データ、年次データなど様々なデータが我々のような専門エコノミストはこうした数字を毎日のように分析しています。
同様に、数字データをもとに不動産投資を行う、アセットマネージャー、金融機関(生損保など)、投資銀行、年金基金などの担当者も、データをベースにした不動産投資を行っています。
こうした方々の見解が、「現在の不動産市況を知る」上では、最も的確につかめるものと思われます。

それでは、現在の不動産市況を不動産投資の専門家はどう見ているのでしょうか。
以下、(財)日本不動産研究所が昨年11月末に公開(調査時点は10月)にした資料(第43回不動産投資家調査)を基に分析してみたいと思います。

今後、不動産投資専門家は積極的に不動産投資を行うのか

この調査は、不動産投資の専門家(普段、業としている)、アセットマネージャーやデベロッパー、レンダー(金融機関)生損保、年金基金、投資銀行の担当者を対象にアンケートを行った物で、「不動産投資専門家の生の声」がうかがえます。
この調査の前回調査(20年4月時点)のころは、新型コロナウイルスが広まり、はじめての緊急事態宣言が出され、東京の中心部の人通りは昼夜を問わずめっきり減っていました。
しかし、緊急事態宣言が解かれてからは、人通りは戻りました。1月に入り、再度緊急事態宣言が発令されましたが、少なくとも昼間に関しては前回のような「街から人が消えた」現象は起こっていません。
感染者が大きく増えましたが、WITHコロナの様相になっています。

こうした状況からか、アンケート結果では、92%が「今後1年間も新規投資を積極的に行う」と回答しています(アンケート調査は10月時点です。以下同様)。
前回4月の調査では一時的に少し落ち込みましたが、コロナショック前の高い水準に戻っています。
金融緩和が一段と進んでおり金融機関から借りやすくなっていること、株高などを背景にして富裕層が投資に積極的になっていることなどから、資金調達がしやすくなっていることが伺えます。
こうした投資マネーの行き先が国内不動産になっているわけです。

一方で、「当面控える」と保守的な解答をされている方も前回調査では20%近かったものが、10月時点では11%となりました。近年は数%でしたので、それから比べるとやや高くなっています。

期待利回りの変化は?

次に東京における賃貸住宅1棟モノ(ワンルーム)の期待利回りの変化についてです。
2010年頃から一貫して期待利回りは低下しています。つまり、賃料が同一ならば価格上昇ということです。さすがに4%台前半となった2019年中頃からは、期待利回りの下落幅は小さくなりました。
城南エリアにおいては、新型コロナウイルスの影響が大きく出た20年4月の調査においても19年と変わらず横ばい、20年10月分でも4.2%と横ばいとなりました。
一方、城東エリアにおいては、20年4月は4.5%でしたが、10月時点では4.4%と期待利回りは低下しました。

ポジティブな解答が多いレジ投資

プロパティ別の新型コロナウイルスの影響については、「レジデンシャル=賃貸住宅(ワンルーム・ファミリー)」においては、「ネガティブな影響があまりなかった」が66%、「ネガティブな影響が全くなかった」が23%となっており、約9割がレジにおいて投資の影響がない、と答えています。

ちなみに、物流施設への投資では96%の方が、影響がなかったと答えていますが、レジ物件は、それに次ぐポジティブな見方をしているようです。
一方で、ホテル関連施設への投資は95%程度の方が、「ネガティブな影響がかなりあった」と回答し、都心の商業施設では約70%の方が、「ネガティブな影響がかなりあった」と回答しています。

このように、現在の不動産投資専門家の方々は、「投資意欲が旺盛な状況が続いていながらも、物件種別は選んで投資をしている」という状況のようです。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。