不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

2021年の不動産市況はどうなる?

新型コロナウイルスの影響で際立った不動産投資における東京都心の強さ

2020年は世界中に新型コロナウイルスの影響が広がり、日本の不動産市況においても大きく受けた状況となりました。
しかし、この大きな影響により「東京(とくに都心)の不動産投資の強さ」が改めて認識された年でもありました。

全国的にみれば、新築着工数・中古取引数等、たいていのデータはマイナスになっていますが、東京(首都圏)の住宅(実需住居)や投資マンションの市況に限れば、「緊急事態宣言が出された期間とその前後を除けば、概ね前年並みだった。」といえる状況でした。

新設住宅着工戸数(既発表の10月分まで)の全国合計値は20%を超える大幅減になっていますが、最も影響が少ないのが東京都となっています。
特に全体の約4割を占める貸家(賃貸用住宅)の落ち込みは全国に大きくなっていますが、東京ではほんの少しの落込みに留まっています。
首都圏への人口集中が議論になっていますが、2020年の住宅着工数をみると、完全な一強状況といえるでしょう。

ちなみに、新型コロナウイルスの影響による働き方の変容、つまりリモートワークが広まった(あるいは一般化し定着した)ことによる、東京からの脱出が増えているという報道がありますが、確かに例年に比べて増えたようですが、人口比に換算すると、「ほんのわずかに増えた程度」だといえそうです。
首都圏、東京に暮らすことの魅力が際立っているのでしょう。

2021年の不動産市況を読む

現状から鑑みて、新型コロナウイルスによる経済の混乱は、WITHコロナが定着してもしばらくは続きそうです。ウイルスの封じ込みとともに経済活動を回復させる(あるいは維持させる)ために、日本のみならず世界的に低金利政策が続いています。
こうした状況が世界的な株高ともたらし、また割安感・安定感・成長可能性といった要因のある(=つまり魅力ある)場所への不動産投資において活況が続いている背景にあります。

~金利の見通し~

不動産投資に大きな影響を与える金利のこの先の見通しですが、日銀の低金利政策に加え、先進各国の中央銀行の動向から考えると、低金利はしばらく(おそらく数年単位で)続きそうです。
また、昨今の世界的な国債の大量発行など論理的に考えると、長期的にみれば金利上昇、インフレは避けられそうにありません。

こう考えると、低金利の間に仕掛ける(物件購入する、追加購入する)ことを考える人が増えるでしょう。
また将来、確実に来るであろう増税とインフレ対策として不動産資産(インカムゲイン資産)を持つという事は有意義だ、と考える方が増えるでしょう。

~居住用不動産の見通し~

2021年の居住用不動産の動きですが、2020年は新築マンションの発売の先延ばしやウリ控えが増え、中古マンション流通も少し落としましたのでその反動を受けて、新築物件の発売戸数が増加、中古物件では売買が活発になりそうです。
当たり前のことですが、住居の需要はどんな時もおさまることはなく、「停滞していると需要が溜まる」という現象が起こります。
つまり2021年は反動増が起こる可能性が高いと思われます。

~地価の動き~

一番読みにくいのが、地価の動きです。
9月末に都道府県地価(=基準地価)が発表されましたが、価格時点は7月1日(コロナウイルの影響が出始めて5カ月程度)ということで、2020年9月分は、新型コロナウイルスの影響が多少織り込まれた内容、つまり前年よりも上昇幅の減少(下落ではないことに注意)となりました。
この上昇幅の減少がどこまで新型コロナウイルスの影響を織り込んでいるか、が論点になるところです。
そのため、3月に発表される公示地価(価格時点1月1日)に大きな注目が集まると思います。
予想では、大都市部の公示地価は、価格下落にはならないと思われますが、7年以上に渡る上昇カーブにブレーキがかかると思われます。

~不動産市況の全般論~

2021年の都市部における不動産市況全体をまとめると、プロパティー別に新型コロナウイルスの影響の大小があるもの全般論とすれば、

1)反動増が見込まれる
2)上昇カーブがおさまり、コロナショック前の水準で横ばい
3)ただ、大きな落ち込みや、ズルズルとしたマイナス基調になることはない

ということになると思われます。

投資マンションの動向と2021年の見通し

最後に、投資マンションの見通しです。
都心における投資マンションの市況は、緊急事態宣言期間中を除いて、新型コロナウイルスの影響があまり見られませんでした。
ただ、サラリーマンの方がワンルームマンションを買うような小ぶりな投資物件は、セミナーの開催が減少するなど、プロモーションを控えていた状況に加えて、「もう少し落ち着いてから」というマインドも見られ、やや販売数は落ち込んだようです。
しかし、こうした投資家アンケート等見ると、投資家の意欲が減少しているという状況ではないようです。

逆に、主に専門的な投資家や富裕層が購入するような1棟モノのレジ物件は、昨今の株式市場が好調と同じように、好調を維持しています。
国内投資家に加え、海外投資家(主にアジア圏)も積極的に「買い」に走っているようです。

また、金融機関の融資姿勢も、リーマンショックの時のように引き締めの兆候は見られません。
こうしたことから、2021年のレジデンス投資(ワンルームマンション、1棟モノ)とも、現在のように好調をキープするものと思われます。
ただ、新型コロナウイルスの影響が長引けば、サラリーマン投資家のような方や年配の方々の戻りが遅くなることが懸念材料でしょう。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。