これまで、賃貸用不動産を購入して相続税を節税することは、富裕層を中心に人気が高い節税方法でした。
なかでも、過度なタワマン節税を問題視した国税庁が、2024年1月に居住用の分譲マンションを活用したタワマン節税に是正措置を導入したことで、富裕層の相続税対策は大きな転換期を迎えました。
さらに、2026年税制改正の中で不動産投資による相続税対策の規制強化が審議されており、今後は従来の相続税対策が通用しなくなる可能性が指摘されています。
今回の記事では、2026年の税制改正案を見据え、これからの不動産投資による相続税対策の見直し方を解説します。
これまでの不動産投資による相続税節税スキームとは?
まずは、従来の不動産投資による相続税節税スキームを3つのポイントから解説します。

相続税評価額と市場価格の乖離を活用する仕組み
相続税を決定するための財産評価では、不動産の評価額は市場価格(時価)ではなく相続税評価額によって算定されます。土地は路線価を基準として、建物は固定資産税評価額を基準として相続税評価額を計算するため、相続税評価額は市場価格よりも2~3割程度低い価格になることが一般的です。
つまり、不動産には「実質的な市場価値を維持したまま相続税評価額を下げられる」という特徴があるのです。相続税評価額が下がると課税対象となる財産総額が減少するため、相続税対策につながります。
また、マンションの場合は立地・設備・眺望などの要素が市場価格に反映されやすい一方で、これらが相続税評価額には十分に反映されないケースがあります。そのため、好立地である都市部の高層マンションなどでは、相続税評価額と市場価格が乖離しやすい構造を生んでいました。
これらの特徴を活用して現金などの資産を不動産に組み替えることで、相続税対策に加えて資産形成にも役立つメリットがあるため、富裕層の間では注目されてきました。
賃貸不動産はさらなる評価額の圧縮が可能
賃貸不動産には第三者である借主が存在するため、所有者が自由に使用・処分できない状態となります。
そのため、相続税評価額を計算する際はこの制限が考慮されて、借家権割合や借地権割合に応じて評価額をさらに減額することができます。
賃貸用不動産の評価制度の仕組みによって、相続税対策に不動産投資が用いられる大きな理由となっていました。
資産のリスク分散に不動産投資を組み込むメリット
投資には、不動産以外にも株式・債券・投資信託など、利回りや運用期間が異なる様々な選択肢があります。
一般的には、保有する資産の形態ごとに以下の特徴があります。
- 現金や預金 → 流動性が高い一方で、収益性が低くインフレに弱い。
- 株式 → 収益性や利殖性が高い一方で、安定性が低い。
- 不動産 → インフレに強い一方で、流動性が低い。
そのため、大きな資産を保有している場合は、資産状況やリスク許容度に合わせて分散投資をすることが望まれているのです。
特に、近年はインフレ傾向にあり物価上昇が続いているため、現物資産を保有できる不動産投資が注目されてきたのです。
2026年税制改正案で相続税対策はどう変わる?
以下では、2026年税制改正案で不動産投資による相続税対策に影響を及ぼしそうなポイントについて解説します。
なお、改正案は2025年12月19日に公表された与党の税制改正大綱に盛り込まれた内容であるため、法制化や施行時期については今後の国会の審議を経て確定します。
不動産の評価方法や相続税対策のメリットは変わらない
まず、2026年税制改正案が施行されたとしても、土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基準として相続税評価額を計算するという仕組み自体は変わりません。
貸家および貸家建付地の評価額の圧縮についても制度に変更はないため、不動産投資の節税効果については今後も維持される予定です。
駆け込み購入による相続税対策の是正
2026年税制改正案で検討されている大きなポイントの1つが、被相続人が亡くなる直前に賃貸用不動産を購入して、相続税を節税しようとする行為です。
従来の賃貸不動産による節税では、相続税評価額を市場価格よりも大きく圧縮できるケースが多かったため、資産規模によっては数千万円~数億円単位での相続税対策が可能でした。
しかし、改正案では、相続開始前5年以内に購入した一定の賃貸用不動産について、相続税評価額を従来の計算方法ではなく、通常の取引価格に相当する金額 (市場価格)を基準に算出することが審議されています。
また、事業者が示す適正な処分価格や買取価格、売買実例価格などが得られない不動産については、購入価格の80%を基準に評価額を算出する方針です。
この場合、亡くなる直前に賃貸用不動産を購入して、現金を不動産に換えて相続税を節税しようというのは今後難しくなります 。
不動産小口化商品の評価方法の是正
不動産小口化商品とは、特定の賃貸用不動産を小口化して投資家に販売し、収益を分配する仕組みのことです。例えば1億円の不動産を100口で募集する場合は1口100万円からの出資が可能であり、出資額の割合に応じて収益が分配されます。
これまでは、不動産小口化商品の場合でも、任意組合型のように出資者全員で不動産を共有する形態であれば、不動産として相続税評価額を算出していたため相続税対策が可能でした。
しかし、2026年税制改正案では、不動産小口化商品については保有期間に関わらず通常の取引価格に相当する金額 (市場価格)に基づき算出することが審議されています。そのため、今後は不動産小口化商品で相続税節税ができなくなる見込みです。
不動産の相続税評価額が想定より高くなることがある
先述の通り、2026年税制改正案は亡くなる直前の投資用不動産の駆け込み購入と、不動産小口化商品による相続税対策を厳しく規制する内容で議論されています。
また、賃貸用不動産を購入した後に交通事故などの不測の事態で亡くなった場合は、意図しない形での駆け込み購入になってしまい、相続税評価額が想定より高くなる可能性があります。
予定していた納税額の変動に備える必要がある
2026年税制改正案が施行された場合、相続税額が上昇するだけでなく納税資金の確保にも影響を与えることが予想されます。
特に、多額の資産を保有している富裕層は相続税の税率が40%~55%に該当するケースが多く、改正案の影響を強く受ける傾向にあります。
そのため、直近で相続税節税を目的として賃貸用不動産を購入した方や、これから不動産投資を検討している方は、5年以内に被相続人が亡くなり評価額が高くなる可能性を考慮しておくことが大切です。
これからの不動産投資による相続対策のポイント3選
以下では、2026年税制改正案を見据えて、これからの不動産投資による相続対策のポイントを3つ解説します。
元気なうちに不動産投資を始める
これから不動産投資で相続税対策を行う場合は、駆け込み購入にならないよう注意する必要があります。そのため、長期的な視点を持って、元気なうちから資産形成の一環として不動産投資を始めることが大切です。
不動産小口化商品は資産分割対策として選択する
先述の通り、2026年税制改正案によると、不動産小口化商品は相続税対策として活用できなくなる可能性があります。
しかし、小口化不動産商品のメリットが無くなるわけではありません。
小口化不動産商品は1つの不動産に対する権利を口数単位で保有するため、「遺産相続時に分割しやすい」という特徴があります。土地や建物などは物理的に分割するのが難しいため、不動産を「誰が相続するのか?」「共有にするのか?」などの点は相続トラブルに多い問題です。
そのため、今後は不動産小口化商品を相続税対策ではなく、「相続トラブルの火種を回避しながら不動産投資を行う手段」として位置付けておくことが大切です。
納税資金の確保を見据えた不動産投資を行う
今後は、相続税節税を目的として不動産投資を始める場合、購入から5年以内に亡くなれば相続税評価額が高くなる可能性があります。
そのため、評価額が変わった場合の相続税の納税資金についても想定しておく必要があります。
また、2026年税制改正案により相続税額が上昇する見込みがある場合は、資産全体のバランスを意識しながら、「必要なタイミングで現金化(売却)しやすい不動産」を保有しておくことが大切です。
まとめ
2026年税制改正案は、相続税節税を狙った不動産の駆け込み購入と、不動産小口化商品による相続税対策を厳しく規制する内容となっています。しかし、不動産そのものの評価方法や相続税対策のメリットは維持される見込みです。
そのため、今後の不動産投資は「単なる相続税対策の手段」ではなく、元気なうちから始める資産形成の手段と捉えて、争族対策や、納税資金の確保なども見据えた長期的な投資計画を立てることが重要です。

