不動産投資と法律

成年後見制度の種類と活用するときの課題

判断能力や認知機能の低下がみられるようになれば、自分以外の人にこうした業務を支援して貰う必要があるでしょう。
そういったときに役立つのが成年後見制度です。

「人生100年時代」という言葉が、最近何かと話題にのぼるようになりました。
長寿大国である日本において、これはもはや現実のものとなりつつあり、他人事ではありません。

この「人生100年時代」という言葉は、単に長生きするというだけでなく、働き方やライフプランの立て方についても、今までとは大きく変わっていく可能性があることを示しているように思えます。

長生きすることは良いことだと思えますが、その分「老後」が長くなることを意味します。
この長くなる「老後」を含めてより良く「100年」を生き抜くには当然十分な資産が必要になります。

しかしながら、加齢とともに判断能力や認知機能が低下していくことは避けられないことです。
となると、こうした老後において「どのように資産を形成していったら良いのだろう」あるいは「すでに持っている資産をいかに維持・管理してくか」といった課題が出てきます。

そういったときに役立つ成年後見制度がどのような制度か具体的にみていきましょう。

【目次】

1.成年後見制度の概要
2.成年後見制度の種類
 任意後見制度
 法定後見制度
  ①後見
  ②保佐
  ③補助
3.成年後見制度の費用の目安
4.成年後見制度の課題
 ①家庭裁判所の監督が強まっている
 ②柔軟な資産管理・運用が難しい
5.まとめ

1.成年後見制度の概要

判断能力や認知機能が低下した人を保護する制度として、まず思いつくのが成年後見制度でしょう。

成年後見制度は「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つからなり、法定後見制度は本人の能力がどの程度残っているかにより「後見」、「保佐」、「補助」の3種類にさらに分けられます。

法定後見制度は本人の判断能力が不十分になってから、申し立てに基づいて家庭裁判所の審判により開始され、同時に裁判所の職権により本人の権利を守る支援者(後見人等)が選任されます。
この「審判」とは民事・刑事事件での裁判にあたるものですが、事柄の性質から非公開の手続きとされます。

2.成年後見制度の種類

成年後見制度の種類は以下のように分かれています。

任意後見制度は、判断能力があるうちに自分で任意後継人を選定します。
一方、法定後見制度は、すでに判断能力に不安がある人が裁判所に成年後見人・保佐人・補助人を選定してもらうというのが大きな違いです。

任意後見制度

任意後見制度は本人が十分な判断能力を持っている時に、あらかじめ任意後見人となる人や、将来その人に任せたい事務の内容を公正証書による契約で定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人がその定められた事務を代理で行う制度です。

この任意後見制度においては、家庭裁判所によって選任される任意後見監督人が任意後見人の行う職務を監督します。

法定後見制度

法定後見制度は本人の判断能力の段階によって、後見・保佐・補助の3つの対象に分けられます。

①後見

後見は、大半の行為を後見人に委ねる最も重い支援制度です。
「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」(民法第7条)場合、すなわち、日常的に判断能力が欠けている状態である人が対象となります。

判断能力を欠く常況にある人(本人)を「被後見人」、支援者を「後見人」と呼びます。

被後見人は日常生活に関する行為以外、多くの重要な行為を一人で有効に行うことはできず、後見人は本人の財産に関するすべての法律行為について代理権を持ちます。
後見人は本人に代わって法律行為を行い、その効果が本人に及びます。

②保佐

保佐は「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である」(民法第11条)場合、すなわち、日常生活に大きな支障はないが、重要な取引等を一人で判断する能力は明らかに不足している状態である人を対象とします。

保佐を受ける人(本人)を「被保佐人」、支援者を「保佐人」と呼びます。

被保佐人は日常的な行為は一人でできますが、保証人になること、不動産を売買する等法律に定められた重要な行為について保佐人の同意が必要とされ、保佐人の同意がない行為については本人または保佐人が後から取り消すことができます。

また、家庭裁判所の審判によって同意権・取消権の範囲を広げたり、特定の法律行為について保佐人に代理権を与えることもできます。

③補助

補助は3つの中で最も軽い支援制度です。
「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である」(民法第15条)場合、すなわち、基本的なものは一人で問題ないが、契約等の重要行為を求められる際は判断能力に一部不安がある状態の人を対象とします。

補助を受ける人(本人)を「被補助人」、支援者を「補助人」と呼びます。

被補助人は原則として一人で行為ができるため、補助人は家庭裁判所が定めた法的権限の範囲内でのみ支援します。
補助人は代理権や同意権・取消権を一切持たないため、必要に応じて裁判所に権限付与の申し立てを行います。

これらの成年後見制度においては、後見人等支援者の職務は直接または後見監督人を通して家庭裁判所の監督下に置かれ、本人の財産の保護が図られます。
また、一旦始まった成年後見制度は、本人の判断能力が回復したと認められる場合でない限り、本人の死亡までやめることはできません。

3.成年後見制度の費用の目安

成年後見制度を利用する際、専門職に支払う報酬については家庭裁判所が決めることとされますが、その目安が東京家庭裁判所より公開されています。

それによれば法定後見人の基本報酬は本人の財産の額によって月額2万円から6万円、その他特別な職務(身上監護で自宅に頻繁に出動したり、本人が入退院を繰り返したりする場合等)を行った際には、基本報酬の50%以内の付加報酬が加算されます。

その他居住用不動産の売却や遺産分割協議への参加等の一定の法律行為を行った場合、その行為の金額によっては数十万円の報酬が加算されることもあります。

保佐人と補助人も同様で、後見監督人は後見人等の報酬の半額です。

親族が後見人等に就任する場合には原則無報酬ですが、裁判所に「報酬付与の申し立て」をすることで報酬が発生します。

4.成年後見制度の課題

成年後見制度は、このように判断能力や認知機能が低下した人を助ける制度ではありますがいくつか課題も指摘されています。

①家庭裁判所の監督が強まっている

最近、後見人が被後見人の財産を横領したというニュースを目にします。
このような後見人等の支援者の不正が少なからず報告されているため、支援者の職務を直接または間接的に監督する家庭裁判所の姿勢も厳格化しています。

一定額以上の現預金について、家庭裁判所は後見人に不正自由に使わせないため「後見制度支援信託」や「後見制度支援預金」の利用を強く求め、応じない場合には監督人を就けるようになっています。
これらは一般の定期預金と同程度の利回りであって、解約には裁判所の指示書が必要になり簡単には引き出せません。

また弁護士・司法書士等といった専門職でない親族が支援者となる場合であっても専門職と同様、定期的に家庭裁判所に対して報告書や財産目録を作成して提出する必要があり、一般人である親族にとっては大きな負担となります。

法定後見開始の申し立てにあたって、支援者の候補者に親族を記載することはできますが、その候補者が選任されずに専門職後見人等が選任される、あるいは候補者の親族が選任されたものの専門職がこの親族支援者の監督人として選任される場合もあります。

専門職が関与すれば、当然報酬も発生し、それは本人の財産から支払われることになります。
そして一旦始まった成年後見制度は、判断能力が回復したと認められる場合でない限り死亡まで続くため、それだけ本人の財産の目減りを招きます。

②柔軟な資産管理・運用が難しい

法定後見制度は、判断能力が不十分になった本人を保護することを目的としています。
そのため、新たに株式や不動産の購入・投資などの積極的な資産運用をしたり、本来持っている権利を放棄することも基本的には認められません。

同様に、本人の資産を相続する場合に向けた相続対策、具体的には生前贈与や新たにローンを組むなど、実質的に本人のためではないと判断される行為も認められない可能性が高いでしょう。

もちろん、こういった資産管理・運用を本人が望んでいないのであれば何の問題もありません。
しかし、本人がこうした方法を望んでいた場合に「本人保護」を理由に許されなくなってしまうことは、成年後見制度を利用するにあたって、留意すべきでしょう。

5.まとめ

成年後見制度は、加齢などによって判断能力や認知機能が低下した場合に、契約などの重要な行為において他者の支援が受けられる制度です。任意後見と法定後見の2種類があります。

任意後見は判断能力がある人が将来に備えて自ら支援者である任意後見人を選びます。
一方、法定後見はすでに判断能力が衰えた人が対象になり、裁判所が支援者を選びます。法定後見の場合は、本人の能力段階に応じて後見・保佐・補助の3つに分けられます。

ただし、成年後見制度は「本人の財産を保護する」という目的のために、不正防止策にかかる費用の多さや、積極的な資産運用・相続税対策が認められないといった課題もあります。
利用に当たっては充分な検討が必要です。

竹松玲

司法書士