不動産エコノミストが語る 不動産投資の必須思考

日銀金融政策の変更可能性と不動産市況に与える影響

【目次】

―植田総裁の初会合で金融緩和政策の継続を決定
―この先の物価の見通し
―金融緩和政策の解除の条件と見通し
―不動産市況にはしばらく追い風が続く
―長期国債金利上昇と不動産市況への影響

植田総裁の初会合で金融緩和政策の継続を決定

植田新総裁にとって初めての日銀金融政策決定会合が4月27-28日に開催されました。
会合終了後の会見で、現在の金融緩和政策の維持が発表されました。具体的には、

①短期金利マイナス0.1%程度に誘導
②長期金利をゼロ%程度に誘導
③長短期金利操作=イールドカーブコントロールを継続
④ETFやJREITの買い入れの継続

総じて全面的に現行の金融緩和政策の全面的継続と決定されました。
この発表後、為替相場は「緩和政策の継続」を受けて、一気に2円程度円安に振れ1ドル136円を超え、5月に入ると138円を超えました。
しばらく135~140円のレンジで推移しそうです。

この先の物価の見通し

日銀の「経済・物価情勢の展望リポート」は毎年4月の金融政策決定会合で公表されます。
今年の展望リポートでは、物価上昇率の見通しについて、生鮮食料品を除いたコア消費者物価指数は、2023年度は前年比プラス1.8%、2024年度はプラス2.0%と前回発表から少し引き上げました。続く25年度は前年比プラス1.6%との見通しです。

23年度は、現在前年比3%台半ばで推移していますが、このあとは下がる(落ち着く)との予測、24年度は23年度のエネルギー関連経済対策の押し下げ効果が前年比ではなくなることとの予測、と考えられます。
また25年度は価格上昇が落ち着くとの見通しを示しました。

4月初旬に日銀から発表された22年10-12月期の需給ギャップを見てもマイナス(供給過多、需要不足)であったことから、このまま現状のインフレ率が維持されるとは考えにくい状況であり、それを反映した見通しといえるでしょう。

金融緩和政策の解除の条件と見通し

23年度・24年度は、日銀が引き続き目標としている「安定継続的な2%程度のインフレ」に近い見通しとなっています。
この見通しを上回るような数字になれば、緩和政策の一部変更も考えられます。

しかし、この目標には「賃金の上昇を伴う」とありますので、賃金の方もクリアしなければ本格解除には至りません。
現在はいまだマイナス圏にある実質賃金(名目賃金÷インフレ率)ですが、今年の春闘の状況を見れば、3%強の賃金上昇が見込まれていますので、徐々に実質賃金は上がるものと思われます。

今回の会見では、金融緩和政策の全面的な継続となりましたが、その一方で「今後、こうなれば金融緩和政策を解除する」というラインが見えたのではないかと思います。
そのラインとは、

①コア消費者物価指数(CPI)が2%を超えること
②実質賃金が上昇すること

の2つがポイントとなりそうです。

1つめのコアCPIの2%超えについては、例えば4月28日に発表された東京都区部消費者物価指数(コア)はプラス3.5%でした。
コアCPIは、この先上昇率が鈍化することが予想されていますが、それでも2%前後は維持するものと思われます。微妙なラインの見通しです。

2つ目の実質賃金ですが、毎月勤労統計調査2月分(4月7日公表:執筆時最新)では、前年同月比マイナス2.6%、これは11カ月連続のマイナスとなっています。
ただ、今年の春闘労使交渉では平均3.69%の賃上げ率でしたので、時間差で実質賃金も上昇してくるものと思われます。
一方で、労働人口の大半を占める中小企業の賃金動向は依然厳しいようですので、実質賃金の前年同月比がプラス圏に入るかどうかは、もう少し様子をみなければ分かりません。

①②ともクリアし、金融緩和政策を緩めるタイミングは早くても24年以降になりそうです。

不動産市況にはしばらく追い風が続く

今回の会見を見る限り、しばらく金融緩和が続き低金利が続きそうです。つまり、不動産市況は、まだしばらくよさそうです。
「金融緩和政策を続けること」には賛否両論あります。金融政策の正常化を求める声や、緩和を続けないと一気に景気が冷え込みかねないという声、全体的には、しばらく金融緩和を続けるべきだという声の方が多いようです。
不動産市況にとって低金利誘導政策は、間違いなく追い風になりますので、あと数年は金融緩和を続けて欲しいところです。

長期国債金利上昇と不動産市況への影響

現在の日銀は本来の役割である、「物価安定のため」の「政策金利の決定」に加えて、イールドカーブコントロールなどを行うことで、より強い金融緩和政策を推し進めています。
こうしてみれば、金融緩和政策の変更を行う際には、日銀は2つのカードを持っていることになります。政策金利の調整と、イールドカーブコントロールの調整です。

この先仮に、金融緩和政策を徐々に緩めるとするならば、現在10年物国債を±0.5%内に誘導している、イールドカーブコントロール(YCC)を解除することから始めると思われます。
22年12月20日に許容幅を±0.25%から±0.5%に、予告なく変更した際には10年物国債の利回りは、一気に上昇しました。
10年物国債(長期国債)の上昇は、例えば住宅ローンの固定金利などに影響があります。現にこの時に、住宅ローン固定金利は上昇しました(現在は落ち着いています)。
しかし、これは多くの方が利用する変動金利には影響はほとんどありません(変動金利は短期プライムレート連動、つまり政策権利の影響を受ける)。

また、長期国債利率の上昇は、不動産投資の際の指標となる「収益還元利回り」の上昇にもつながり、投資用不動産の価格下落の可能性が出てきます。ここは注意したいところです。
しかし、コントロール(YCC)の解除で、昨年末のように直ちに長期国債金利が上昇するかどうかはわかりません。
その時の金融状況次第です。注意は必要ですが、慌てることなく対処すればいいでしょう。

不動産エコノミスト
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

不動産エコノミスト 吉崎 誠二

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。 (株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職. 不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。