税理士が教える失敗しない不動産投資

資産運用に切っても切れない税。広い視点から日本の税収概要をみてみよう

1.各種税収推移の概要

税金の知識を持つとその動向が理解できるようになります。まず、税金とは国が国民に課すもので、国民は納税義務があります。その代わり、国は、国民のためにその税金を有効に使わなければなりません。まず、税金の種類別の金額とその推移(図1)を見てください。以前は、直接税の所得税と法人税の比率が非常に高い状態でしたが、次第にその比率が下がっていることがわかります。長期的には、直接の申告による直接税は、減収傾向にあるのです。相対的に金額の少ない相続税も申告による直接税です。

また、 景気の循環とともに、所得税と法人税の税収が上下していることがわかります。一方、間接税の消費税は景気変動に左右されずに、安定した税収を確保しています。金額でも、所得税、法人税、消費税が税収の柱になっています。景気の変動に関係なく、国は、国民へのサービスは提供し続けなければなりません。そのためには、税収を安定させるとともに、その徴収方法でも不公平をなくすことが大切になります。

税収推移:財務省HPより(図1)
そこで次は、消費税(付加価値税)の国際比較を見ていきたいと思います。消費税は、税収推移(図1)でわかるように、安定税収を確保できます。EU諸国は、その比率を高め税率19%から25%と高めの設定となっています。なぜなら、間接税の消費税は、使った人が税金を納める仕組みなので、節税や脱税が難しいためです。直接税は、法の穴を突いた脱税まがいの節税や、国ごとに異なる税制をうまく利用しての節税が行われることがあります。

しかし、一方で低所得者からすると、間接税は所得が少ないにもかかわらず高所得者と同一の税金を取られることになります。当然、所得が少ないほど税金の負担が大きく感じます。そこで、EU諸国は、そのための方策として、低所得者に負担を感じさせないように生活必需品に軽減税率を適用したり、一部の活動に補助金を出したりすることで、その調整を行っています。また、資金の動きを正確に捉えることができるように、人や会社に番号を振り、お金の流れを正確に捕捉することで、脱税を防ごうとしています。具体的には、国民総背番号制やインボイス制度です。これには、プライバシーの問題も絡むので、各国は慎重に取り扱っています。日本でも2016年に、マイナンバー制度が取り入れられました。そして、消費税に関しても、インボイス制度を導入予定です。

付加価値税(消費税)の国際比較:出典国税庁HP(図2)

2.国家予算

国家予算には、資金使途が限定された特別会計と限定されない一般会計予算があります。厳密には一部入り混じっているのですが、ここでは、大きく一般会計予算(図3)を見てみたいと思います。一般会計歳出は、私たちが納めている税金が何に使われているのかがわかります。一般会計歳入は、既にみてきたように、どの種類の税金がその源泉になっているかを示しています。歳出では、社会保障費(具体的には、年金や医療費です)、国債費(国債の借り換えと金利です)、地方交付税(47都道府県に分配されます)で、実に、歳出全体の73.4%を占めてしまいます。地方交付税は47で分割されるので、各都道府県に分配される金額は少額になります。問題は、社会保障費と国債費が57.4%を占めていることです。高齢者の増加で、今後ますますこの比率は高くなると予想されています。でも、公共事業費は6.1%と、非常に低い状態です。また、将来の日本を支える教育費も、5.5%と少ないのです。これでは、積極的な経済政策等の前向きな資金を捻出することができません。

一方、一般会計歳入をみると、公債費が35.3%と約1/3を占めています。これは、国債による資金調達なので、将来返さなければいけません。言い換えると、現在の国民が将来の国民にお金を借りていることになります。将来世代の負担になります。所得税(18.4%)、法人税(12.7%)、消費税(17.6%)の比率は、グラフでもわかるようにこの3税で約半数を占めます。税収を安定させるためには、この3税を安定させることが必要となります。そこで、様々な税制改正が毎年行われているのです。

今後行われる税制改正については、このような現状があることを十分に理解しておくことが大切です。高齢化社会に適合し、年金や医療負担の維持を継続しながら、税負担を公平に保つための税制改正です。

国家予算(一般会計予算:図3)
出典:財務省HPより

投資用不動産関連の税制改正においても上記のような環境であることを考慮して、不動産投資を検討している、実施している方は長期的な視野に立っての行動が必要になります。たとえば、間接税(消費税)の課税が強化されること、資金の流れの捕捉が正確に行われること等です。そのことを前提に、課税に対する知識をもつようにしましょう。

税理士 齋藤聡

慶應義塾大学 経済学部(計量経済学専攻)卒業。 東京大学大学院 法学政治学研究科(民刑事法専攻)修了。 東海銀行(現三菱東京UFJ銀行)に20年間勤務、銀行で法務とベンチャー支援の知識を身に着ける。その後産業能率大学にて、法律、税法、ビジネスプラン等を教え、現在教授を務める。